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パテック フィリップ|2020年、花開いた大輪のコンプリケーション【No.01】

 2020年の初頭、パテック フィリップは15年に建設を開始した新工房を落成し、春以降本格稼働させた。これによりジュネーブにおけるすべての生産活動を集約し、さらなる品質向上と効率化を図ったのである。
 そしてこの新工房の落成のタイミングに合わせたのだろう。巨匠としての技術力を改めて証明する魅力的なコンプリケーションを相次いで発表した。
今年もまもなく終えようとしているいま、改めて同社が発表した大作4モデルを、今回と次回の2回にわたって紹介したい。

 

Complication 01|Grande Sonnerie
パテック フィリップ・グランドソヌリ 6301P

パテック フィリップとしてグランドソヌリを最も純粋に体現した初の腕時計。光沢仕上げの本黒七宝文字盤、サイドに段差を付けたプラチナケースを採用し、気品を漂わせている。また音で時刻を知らせるリピーターモデルでは、慣例として夜光が塗布されることはなかった。しかし本作では時分針にそれが塗布され、暗所においても音に頼ることなく時刻が確認できる。観劇中など音を鳴らすことがマナー違反となる状況で非常に有用だ。
■Ptケース、アリゲーターストラップ。ケース径44.8mm。非防水。手巻き(Cal.GS 36-750 PS IRM)。時価(受注生産)

 

創業以来手がけるリピーター機構の集大成

 パテック フィリップがリピーター機構を手がけてきた歴史は長い。
 創業年である1839年に製作した最初のタイムピースのひとつは、すでにリピーター機構を備えており、その後も同社は19世紀を通じて様々なタイプのリピーターモデルを製作。それに関する特許も様々取得するなど、技術的にも時計界を牽引してきたという背景がある。
 2020年発表モデルのハイライトである“パテック フィリップ・グランドソヌリ 6301P”は、そんな同社の卓越した技術力を発揮し、グランドコンプリケーションの巨匠としての圧倒的優位を改めて立証したモデルと言えよう。

 正時と15、30、45分の1時間に4回、時とクォーター(15分)を自動的にチャイムの音で時刻を知らせてくれる“グランドソヌリ”自体、その複雑さゆえ腕時計では非常に珍しい機構だが、本作ではこれに加え、その簡略版である“プティットソヌリ”(15、30、45分には時は鳴らない)、そして任意の操作で現在時刻を分単位で知らせてくれるミニット・リピーターを同載している。三つのリピーター機構を搭載したのは14年に発表した最も複雑な腕時計“グランドマスター・チャイム”以来、同社でも初。リピーター機構に特化したチャイミングコンプリケーションだ。

自動的にチャイムが鳴るグランドソヌリまたはプティットソヌリでは、多くの場合、サイレントモードが搭載されている。本作も然りで6時位置のケースサイドにあるスライドレバーによって切り替えが行える

 搭載しているのは、グランドマスター・チャイムに搭載したキャリバー300から派生した新開発のGS 36-750 PS IRMである。24時間で1056回もゴングを鳴らすグランドソヌリではエネルギーの消費も大きいため、動力源には時刻用とチャイム用で別々のゼンマイが割り当てられた。これにより前者は72時間、後者は24時間のパワーリザーブを実現。さらにジャンピング・セコンド機構も新たに組み込まれ、実用を高めている。
 また複雑機構でありながら一見シンプルな意匠となっている点も本作の大きな魅力だ。ケース径こそ44.8mmとやや大振りだが、一方で厚みは12mmに留められており、“日常使いできる複雑時計”という同社の哲学を体現している。

時刻を正確に聞き分けられるよう3音階を鳴らす3ゴングを採用。ケース素材に採用したプラチナは完璧な音響を実現することが難しい素材とされるが、長年同社が培ってきたリピーター機構製作における高度なノウハウでこの課題もクリアした

 

Complication 02|Minute Repeater Tourbillon
ミニット・リピーター トゥールビヨン 5303

2019年にシンガポールおよび東南アジア限定として12本のみ製作された特別モデルが、装いを新たに現行コレクションに迎えられた。ミニット・リピーター機構を文字盤側に集約し、オープン・アーキテクチャーによってそのメカニズムを披露したユニークピースである。
■K18RGケース、アリゲーターストラップ。ケース径42mm。非防水。手巻き(Cal.R TO 27 PS)。時価

 

コレクションに加えられた新基軸のリピーターモデル

 グランドソヌリ 6301に先んじて発表され、大きな注目を集めたもうひとつのリピーターモデルが“ミニット・リピーター・トゥールビヨン 5303”である。本作は2019年9月にシンガポールで開かれた同社の“ウォッチアート・グランド・エグジビジョン”で発表された12本限定の特別モデルが細部に変更を加えられ、現行コレクションに迎えられたものだ。

 パテック フィリップは、今日最も数多くのミニット・リピーターウオッチを展開する時計メーカーである。ミニット・リピーターのみを搭載したモデルだけでなく、ほかのコンプリケーションと組み合わされたモデルなど幅広い展開を見せるが、19年の特別モデルが製作されるまで文字盤側にチャイム機構を見せるミニット・リピーターは発表したことがなかった。
 しかも文字盤をオープン・アーキテクチャーとすることでリピーター機構のメカニズムを余すことなく現したのである。一般的なミニット・リピーター機構では、シースルーバック仕様であっても機構の全貌を知ることはできない。構造上、ハンマーが別のパーツの下に配されて隠れてしまうためだ。対して5303で搭載してるキャリバーR TO 27 PSでは文字盤側に機構を集約。着用したままでもハンマーとゴングの動きを堪能できる。
 そして聴覚と視覚同時に刺激を与える、斬新なタイムピースに仕立てたのである。

シースルー仕様となった裏側も見応えがある。アンフィシアター(古代ローマの円形劇場)を思わせる装飾が施されたホワイトゴールドによって縁取られたムーヴメントは、トゥールビヨンの受けと4番車の受けが1段高い位置にセッティングされ立体的な造形を生み出している

 また6時位置のスモールセコンド越しからは、トゥールビヨン・キャリッジの裏面も見ることができる。5303の唯一無二ともいえる先鋭的かつ独創的な意匠が、熱心な愛好家たちに新鮮な驚きを与えたことは言うまでもないだろう。
 20年に発表された新しいバージョンは、18金ローズゴールドのケースに、特別モデルではレッドだったキーカーラーがブラックに改められ、より落ち着いた雰囲気に仕上げられた。また通例に従って特定の部分が切り抜かれたスケルトン・ムーヴメントにも微細な変更が加えられ、完璧な美しさが追求されている。

ケースの直径は42mm、厚みは12.13mmである。ふくらみを帯びた幅の広いベゼルを採用して重厚感を与える一方、ケース側面とラグにはリーフ装飾の彫金が施されたホワイトゴールドをインサートし、きらびやかな雰囲気に仕上げている

スモールセコンドのスケールがスケルトン仕様となっており、そこからトゥールビヨン・キャリッジの裏面を見ることができる。また繊細なムーヴメントがむき出しとなっており、日光によって潤滑油の劣化が早まってしまうことを防ぐため、UV保護コーティングが施されたサファイアガラスを採用する

 次回(12月31日・木に配信)は、残り2モデルを取り上げる。

 

文◎堀内大輔(編集部)

 

【問い合わせ先】
パテック フィリップ ジャパン・インフォメーションセンター TEL:03-3255-8109
公式サイト https://www.patek.com/ja/

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