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はじめてのアンティーク時計におすすめな定番モデル-其の3【ヨットクラブ】

 はじめてアンティーク時計を購入しようとお考えの人におすすめしたいのが、“定番”と呼ばれるモデルだ。常道ではあるが、ことアンティークについては現行品以上に定番を選ぶメリットは大きいといえる。
 そのメリットのひとつが“高い信頼性”だ。
 アンティークはやはり古いものだけに、ある程度の不具合が出るものだが、今日、定番と呼ばれるものは、ムーヴメントにせよ外装にせよ、しっかりと作り込まれているモデルが多いため、それが少ないのである。特にアンティーク時計の扱いに慣れてないうちは、こうしたモデルを選んだほうが安心であることはいうまでもない。そこでアンティーク時計で定番と呼ばれるモデルを取り上げ、その魅力を探る本連載。3回目となる今回は、IWCのヨットクラブを紹介したい。

定番-其の1【デイトジャスト】
定番-其の2【コンステレーション】

 

定番-其の3/IWC ヨットクラブ

 ロレックスの1500系やオメガの550系キャリバーなどと並び、自動巻きムーヴメントの傑作に数えられるのが、“ペラトン自動巻き”の通称で知られるIWCの85系キャリバーだろう。
 これらに共通するのは高い信頼性と精度、そして優れた巻き上げ効率を誇る点だが、なかでも堅牢設計がもたらしたIWCの85系の信頼性は抜きん出ているのではなかろうか。

 IWCが量産機として初の自動巻きムーヴメントを完成させたのは、1950年と他社に比べ後発だった。設計者は当時同社で辣腕を振るっていたアルバート・ペラトンで、先の通称はこれに由来する。ペラトンの設計思想を簡潔に言うならば、“より頑強に、より高精度に、そしてより高い生産性を”、であった。そしてこの思想が色濃く反映されたムーヴメントが85系キャリバーだったのである。

IWCが手がけた“ペラトン自動巻き”。1950年にCal.85が登場し、これをベースに高振動化したものやデイト表示を追加したものなどの改良版が生まれている

 アンティークロレックスを代表する自動巻きの1500系キャリバーとの大きな違いは、自動巻き機構にラチェット式(1500系はリバーサー式)を採用した点にある。このラチェット式とは、ローターの回転を、爪の左右運動に変換し、主ゼンマイを巻き上げる構造となっており、衝撃に強いうえ、巻き上げ効率に優れ、かつ高い耐久性を備えるというメリットがあった。一方で薄型化には向かなかったが、厚みのある構造もまた85系に優れた耐久性をもたらすことになったのである。

 

 当時のIWCは、優れた耐久性をもつ自動巻きムーヴメントを得て、スポーツモデルをはじめ様々なモデルに搭載していった。同社を代表するインヂュニアやアクアタイマーといった傑作モデルも85系キャリバー搭載だ。つまり、それだけ自信作であったということだろう。
 ただ、インヂュニアなどのいわゆる“役モノ”は、現在のマーケットでも総じて人気が高く、相場も割高になっている。

85系キャリバーは、インヂュニア(左)やアクアタイマー(右)といったプロユースのモデルにも搭載。ただ、これは人気が高く、現在100万円オーバーすることも珍しくない

 そんななか同じ85系搭載の役モノでありながら、50万円以下という手頃な価格で狙えるのが、67年に登場したヨットクラブである。

耐衝撃性に優れたCal.854を、五つのゴムで固定されたインナーケースで保持することで、よりタフネス性能を強化したスポーツウオッチとして誕生したヨットクラブ。ちなみに当時の価格はステンレススチール仕様で440スイスフラン。インヂュニア(Cal.854搭載機)の515スイスフランよりもやや安価な価格設定であった。
(写真のモデル)■Ref.811。SS(36mm径)。自動巻き(Cal.8541B)。1970年代製。参考価格30万円

 このヨットクラブでは、85系キャリバーを搭載し、さらにこのムーヴメントを五つのゴムで固定したインナーケースで保持することで優れた耐衝撃性能を実現。その優れた性能からスポーツモデルとして展開された。

 実力は申し分ないヨットクラブだが、デザインが多少地味であることからか“玄人好み”のモデルとされ、それゆえに現在、ほかの役モノに比べて相場は30万円台とかなり抑えられている。

(左から)Ref.811A。SS。参考価格38万円/Ref.811AD。SS。参考価格34万円/Ref.911AD。YG。参考価格45万円

文◎堀内大輔/写真◎笠井 修

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