一般的な時刻表示は、針の軸を中心として右まわりに回転する。これに対して、回転する針が一定の位置まで進むとバネの力で所定の位置まで戻り再び進み始める、というユニークな表示機構が“レトログラード表示”だ。主に分表示や日付け表示で用いられ、針が行ったり来たりする様が見た目にもおもしろいため、この表示をギミックとして活用している時計は結構多い。
この機構の起源には諸説あって、17世紀後半にはレトログラード表示を備えた懐中時計が登場していたとも言われている。少なくともアブラハム-ルイ・ブレゲが製作した懐中時計にレトログラード式が採用されているため、18世紀半ばには存在していた機構である。いずれにせよ、かなり古くからあった表示機構であったことは間違いない。
そんなレトログラード表示が腕時計界でちょっとしたブームになったのは1990年代。当時、活躍していたジェラルド・ジェンタやダニエル・ロートらがレトログラード表示を採用した時計を積極的にリリースしたのである。ほかにもフランク・ミュラーのもとでレトログラードの開発に携わっていた技術者で、その才能を買われて後に独立したピエール・クンツなど有名だ。ちなみにピエール・クンツは“レトログラードの魔術師”という異名ももつ。
レトログラード表示が腕時計で採用されるようになったのは1990年代と意外に遅い。特にジャラルド・ジェンタ(写真左)やダニエル・ロート(同右)、そしてピエール・クンツら独立系ブランドが好んで採用した
こうして脚光を浴びたレトログラード表示だったが、それも長くは続かなかった。その要因のひとつが、“故障しやすい”というマイナスイメージが定着してしまったためだ。意外と知られていないが、レトログラード式の時分表示は、構造的に針の逆回しができないタイプがほとんどである。しかしそのことを知らずに逆回ししてしまうユーザーが多く、故障が多発してしまったのである。一度定着してしまったマイナスイメージを払拭するのは、なかなか容易なことではなく、徐々に数を減らしていってしまったのだ。
とはいえ、今日でもレトログラード表示をもつモデルはある。なかにレゼルボワールのように、モジュールを独自開発し針の逆回しを可能にしたモデルを展開するブランドもあるが、多くは従来的な機構のままであることが多いため、レトログラード式の時分表示では原則針を逆回しすることは避けたほうがいいだろう。
レゼルボワールは、240度のレトログラード ミニッツカウンターと、ジャンピングアワー、パワーリザーブ表示を用い、象徴的な計測器コレクションを展開する新進ウオッチブランドだ。
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文◎堀内大輔(編集部)