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【話題の国産ウオッチを本音レビュー|Vol.9】シチズン エコ・ドライブ プロト

 シチズンはレトロ顔のモデルをまとめた“レコードレーベル”というコレクションをこの2月に展開し始めた。以前から発売されていた“アナデジテンプ”や“エコ・ドライブ プロト”といったモデルにいくつかの新機種を追加したラインナップだが、これがいずれもかなり個性的でなかなか楽しいコレクションになっている。“レコード”は音楽ソフトのアナログレコードを楽しむような趣味性の強さに加えて、シチズンがこれまでに生み出してきたデザインをレコード(記録)するという意味もかけられている。過去のアーカイブを現代的な解釈でリファインしたモデルが目立ち、目の肥えた時計ファンからも人気を集めそうだ。今回はこのコレクションから、エコ・ドライブ プロトを紹介しよう。

 エコ・ドライブといえば、現行シチズンの基幹的な技術ともいえる光発電システムで、普及モデルから高級モデルまで多くの製品に採用されているが、そのルーツは意外にも1970年代まで遡る。シチズンが最初に太陽電池時計の製品化に成功したのは、76年の“クリストロンソーラーセル”で、これはもちろん世界初の光発電時計だ。しかし実はシチズンでは、その2年前の74年に光発電時計の開発に成功していたのだ。この試作モデルは何らかの事情があって市販に至らなかったのだが、今回のエコ・ドライブ プロトはこの74年の試作モデルをモチーフにしている。

 1970年代は時計業界でもクォーツが急速に台頭し、精度の向上と低価格化が進んでいった時代だ。工業技術の進化と並行して公害やオイルショックといった社会問題も取り沙汰される時代だった。特にエネルギー問題は深刻に捉えられており、太陽光発電はその不安を解決する夢の技術として注目されていた。そうした背景を含めて考えると、この時計がもつ意味の重さも大きく変わってくる。しかも当時は発売されなかったモデルという点も、時計ファンの心をくすぐるポイントだろう。

■Ref.BM8541-91E。SS(38mm径)。5気圧防水。クォーツ(Cal.E101、光発電エコ・ドライブ)。2万7500円

 今回ピックアップしたのは、ブラック×ゴールド文字盤のモデル。ちなみにオリジナルはブルー×ゴールド文字盤だが、そちらもちゃんと製品化されている。今回の製品化にあたっては、開発当時の手書き図面を参考に、ケース形状や特徴的な6分割文字盤、立体的なインデックスを再現していったという。いかにもレトロテイストなケースは、緩やかなカーブを基調としたワンピースフォルム。エッジは適度に面取りされていてちょっと艶やかな味付けが成されている。

 文字盤も中央のブラックとエッジのゴールドがいいコントラストになっているし、ケースよりもかなり大きく浮き出たカットガラスも70年代的な味付けになっている。ケースサイズは38mmと現代の基準からするとやや小さめだが、この個性の強いデザインで40mmを超えてくると悪目立ちしそうなので、このくらいがベストマッチだろう。側面も絶妙なラインでカーブしているので、腕に着けたときにスムーズにフィットする。メッシュブレスもこの価格帯にしてはかなり作り込みが丁寧で、装着感は抜群に良い。適度なレトロ感を演出しながら、仕上げの細かさで全体の質感を向上させているという印象だ。
 ムーヴメントは最新のエコ・ドライブを搭載しており、フル充電時は暗所でも半年駆動し続ける。機能的には3針でごくシンプルだが、70年代に人気が高かったデイデイト表示を搭載しているのもこだわりだろう。


 レトロ顔に最新のエコ・ドライブを合わせて実用性を高めるというコンセプトは多くの時計ファンに支持されると思われる。アンダー3万円という価格帯としてはディテールへのこだわりも念が入っているし、ちょっと個性の強い時計を探している人にはかなり響くのではないだろうか。トレンドになっているきれいめのスポーツカジュアルにも合わせやすく、いまの時代にマッチしたモデルとして人気を得そうだ。

 

構成◎堀内大輔(編集部)/文◎巽 英俊/写真◎編集部

 

【問い合わせ先】
シチズンお客様時計相談室 TEL.0120-78-4807
https://citizen.jp

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