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【知っておきたい腕時計の基本】ロービートとハイビートではどちらが優れている?

 精度とも密接に関係する“振動数”。その概念は、コマで考えてみると理解しやすい。

コマの回転数が早いほど姿勢は安定しやすい。ただ一方で、軸の接地面には大きな摩擦が生じる。これを時計に言い換えると、精度は出やすいが、摩擦が大きいため、実用として成立させるにはパーツの耐久性を上げるか、頻繁に交換しなければならない

回転速度が遅いと、軸の接地面の摩擦は比較的少ないが、姿勢は安定しにくい。言い換えると、ロービートは外力の影響を比較的受けやすいため、安定した精度を得るには、動力のロスを減らし、伝達効率を高めなければならない

 コマは高速回転するほどに姿勢は安定しやすいが、反面、軸の接地面には大きな摩擦が生じる。一方、低速回転の場合、摩擦は少ないが、姿勢は安定しにくくなる。これを振動数に置き換えると、ハイビートほど動的精度が向上するが摩耗は大きく、ロービートほど摩耗は少ないが、精度が外乱の影響を受けやすいとなるわけだ。ちなみにこの特性を利用して精度を高めたのがクォーツムーヴメントでその振動数は機械式を遥かに凌駕する。1970年代以降は、機械式でもハイビートによる高振動化が積極的に行われ、毎秒10振動(毎時3万6000振動)というムーヴメントが次々と生まれた。

1960年代以前に製造されたアンティークウオッチの多くがロービートムーヴメントを搭載した。なお現在では毎時2万8800振動(毎秒8振動)以上が主流となっているため、この振動数以上がハイビート、以下がロービートとみなされることが多い。ただアンティークでは1万8000振動(毎時5振動)というものが大半だった

 精度だけを考えるなら、ハイビート化は非常に有効な方法であることは間違いない。しかし、近年ではロービートならでは良さが再評価されている。
 そのメリットのひとつが、先にも挙げた摩耗が少ないという点である。これは、翻って長く使えるということでもあり、世代を超えて受け継ぐような高級時計ではロービートがしばしば採用されている。また近年はパーツの加工精度が向上したほか、新素材も導入され、ロービートでも精度が出やすくなったということも、採用するメーカーが増えてきた理由だろう。

ハミルトンがETAと共同開発したCal.H-10。ベースとなったのはETAのCal.2824-2である。本来、2824-2では毎時2万8800振動あるのに対して、H-10では毎時2万1600振動へとロービート化されている

 そしてもうひとつのメリットが、パワーリザーブを温存できるという点だ。この点に着目し、ユニークなメカニズムを採用したのがヴァシュロン・コンスタンタンのトラディショナル・ツインビート・パーペチュアル(2019年発表)だ。
 本作の最大の特徴は毎秒10振動(毎時3万6000振動)と毎秒2.4振動(毎時8640振動)の2種類の振動数を持ち、これを任意に切り替えることができるということ。外力の影響を受けやすい着用時にはハイビートのモードを選択し高精度をキープさせ、逆に非着用時にはロービートのスタンバイモードに切り替えてエネルギーを温存できる。このスタンバイモード時におけるパワーリザーブはなんと約65日間にも達するというから驚きだ。

その際立った特殊性で注目を集めたヴァシュロン・コンスタンタンのトラディショナル・ツインビート・パーペチュアル

 ハイビートとロービートではそれぞれ一長一短があり、どちらのほうが優れているというものではないが、機械式時計を購入するうえで知っておいて損はないだろう。

 

文◎堀内大輔(編集部)

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