ここ数年、国産時計で顕著なトレンドとなっているのが、文字盤に和の伝統工芸を取り入れた新作だ。古くから活動している工房とコラボレートして、漆や蒔絵、磁器などを文字盤に採用して和のテイストを強調し、時計に新しい魅力を与えている。加工が難しく時計のパーツとして活用するのが難しかったこうした工芸品も、加工技術の向上によって取り入れることができるようになったという背景もある。また、スイスの時計と差別化し、メイドインジャパンの魅力を世界にアピールするブランド側の意気込みもあるだろう。実際に海外の市場でもこうした時計は評価が高く、今後もこの動きは拡大していくものと思われる。
Iconic Nature Collection 紺碧(こんぺき)
■Ref.AQ4100-14L。スーパーチタニウム(38.3mm径)。10気圧防水。クォーツ(Cal.A060、光発電エコ・ドライブ)。限定250本。38万5000円
今回ピックアップしたザ・シチズンのアイコニックネイチャーコレクションでフィーチャーされた素材は、手漉きの土佐和紙だ。“紺碧”のブルー文字盤を見てみると、繊細な濃淡、繊維の長短が織りなす模様など、その風合いはほかの素材では生み出せない複雑な美しさを感じさせる。今回のコレクションでは極薄で独特の風合いを持つ“典具帖紙(てんぐちょうし)”、繊維を砕かず塊の状態を残した“雲龍紙”の2種類を使い分けているそうで、特に雲龍紙に漉きこまれた長い繊維(雲龍)の配合量はシチズンオリジナルで、美しく雲龍が入っているものだけを吟味しているそうだ。やや淡い色味のなかにもやっとした神秘的な風合いが加わり、たしかに複雑で魅力的な雰囲気を醸し出している。
気になるのは、紙素材が日焼けなどによって劣化しないのかというところだ。その点も抜かりはなく、シチズンでは極薄の紫外線カットガラスを開発し、紙の文字盤の上に貼り合わせているのだ。インデックスやロゴなどはそのガラス部分にセットされており、和紙の風合いを損なうこともない。
もう一点気になる点は、この時計が光発電ムーヴメントを搭載しているところだ。ソーラーセルは文字盤全面に配置されており、文字盤全面に和紙を貼った状態だと、光が透過しないのではないかと思うのだが、これはおそらく和紙を極限まで薄くスライスして受光感度を高めているのだと想像される。和紙のテクスチャーを壊さないように薄く処理しているのは当然だが、それでも受光感度を上げていくのは相当な技術が必要だろう。シチズンは1970年代からソーラーセルを採用しており、技術の蓄積があるからこそなし得たわけで、ソーラーセルの実用性をキープしながら見た目も美しく仕上げるという点はシチズンの真骨頂だ。
ケースはザ・シチズンでおなじみのデュラテクト加工を施されたスーパーチタニウム。少し鈍色っぽいトーンの締まった雰囲気で、傷にも強くデイリーユースには最適だ。フォルムはごくオーソドックスなので、長年使い続けても飽きが来ないだろう。インデックスや針は多面カットの高級感あるものを採用しており、文字盤とともに光の当たり方で見え方が大きく変わるので、眺めているとかなり楽しめる。またレザーベルトの質感も上々で、肉厚な革は装着感もいい。このストラップは、環境負荷に配慮したタンナーで製造されたもので、SDGsに対する気配りも怠りがない。
ムーヴメントは前述のように光発電のエコ・ドライブで、しかも年差±5秒という高精度な年差クォーツを採用しており、電池交換や時刻合わせなどのメンテナンスをほとんど気にせずに使うことができる。外装の高級感とハイレベルな実用性をあわせ持っている点は、ザ・シチズンらしいところだ。そこに和紙ダイアルの神秘的な雰囲気と、製造本数250本というプレミアム感が加わっていることを考えると、日常使いの時計としてはかなり価値ある1本といえよう。アイコニックネイチャーコレクションは、この“紺碧”のほかに色違いで全4モデルがラインナップされているので、好みのトーンをチョイスしたい。風防ガラスには光の約99%を透過させることで反射を抑えるクラリティ・コーティング加工が施されており、視認性を高めている点も実用時計として頼もしい。
【問い合わせ先】
シチズンお客様時計相談室 TEL.0120-78-4807
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構成◎堀内大輔(編集部)/文◎巽 英俊/写真◎編集部