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アンティーク時計、不滅の傑作選【マークシリーズ】

 IWCの傑作として知られるマークシリーズが最初に誕生したのは1936年。それが通称“マークⅨ”である。余談だが、なぜ通称かというと当時はパイロット向けと銘打ってはいたもののモデル名はなかったからだ。これは軍用として開発された後継機“マークⅩ”にも同じことが言える。第3世代からマーク11規格という正式な規格名が設けられたことから、後になって便宜的に付けられたものだったのである。

マークⅨ
1936年に誕生したパイロットウオッチ。イギリス軍に制式採用となったのはマークⅩからのため、このモデルが便宜上、マークⅨと呼ばれてる。手巻きのCal.83、3ピース構造のケースを採用する

 さてこのマークⅨ。3ピースケースに裏ブタはスナップバックが与えられ、内部にはステンレス製のダストカバーを備えていた。ただ、このカバー自体に耐磁性はなく、あくまでも防塵を主目的としたものだったようだ。
 搭載されたムーヴメントは美しく6分割されたブリッジを備えた屈強で高精度を誇る名機、Cal.83。しかもマークⅨのそれはほかとは仕様が若干異なっていた。文字盤に記された“Anti-Magnet”からもわかるように、ニヴァロックスヒゲゼンマイや耐磁性を考慮したパーツが使われていたのだ。外装にはコインエッジが刻まれた回転ベゼルを有し、風防内側には飛行時間を把握できるように赤いアワーマーカーを備えており、風防には割れてもパイロットが怪我しないように、当時最新だったプラスチックが使われるなど、パイロットウオッチとしての機能と堅牢性を重視した作りだったのである。

マークⅨとⅩに搭載された手巻きのCal.83

 パイロットウオッチとして開発されたマークシリーズがイギリス空軍に正式に採用されたのがマークⅨの後継機となった通称“マークⅩ”だ。これこそ軍の要請で開発された本格的なパイロットウオッチである。1945年5月から12月にかけて述べ6000本が納入されたと正式に公表している。そして、それらにはイギリス空軍所有を表すブロードアロー(矢印形のマーク)が文字盤と裏ブタに表示された。
 ムーヴメントはマークⅨと同じCal.83(一部モデルには天真に耐震装置を備えたCal.83 INCAを搭載した個体もある)だがケースが刷新された。スナップバックながら防水ケースとなり、ベゼルとミドルケースを一体化した2ピース構造に変更された。これはコクピット内が急激に減圧した際に風防が吹き飛ばないようにするためだったようだ。
 そして、マークⅩをより高性能化して48年に誕生した“マーク11”が第3世代となる。先述したように製品の規格名として正式に使われたのがこの第3世代から。ここで誤解がないよう書かせていただくが、“11”のみローマ数字となっているのは誤植ではない。これが正式なものなのである。戦後の微妙な時期であり、ローマ数字はイギリスにとっての敵性外国語だった、というのがその理由と言われている。

 

歴代マークシリーズ

マークⅩ
イギリス空軍の要請を受けて製作されたマークⅩ。1945年初出。マークⅨと同じくCal.83が搭載されるが、ケースは2ピース構造となった。なお写真の個体は、イギリス陸軍用で文字盤に管理コードが入る

 

マーク11
イギリス空軍に正式に採用されたマークⅩをより高性能化し、1948年に誕生したマーク11。文字盤上のブロードアローの位置、トリチウム表示などによって、おおよその製造年代がわかる

 

マークⅫ
マーク11の後継として1994年に登場したのがマークⅫである。ムーヴメントは自社製のCal.89に代わって、ジャガー・ルクルト製のCal.884が採用された

 

 

文◎堀内大輔/写真◎笠井 修

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