意外と知らない時計知識

Q8.東京2020オリンピックおよびパラリンピックのオフィシャルタイムキーパー(公式時計)を務めたメーカーは?

A.オメガ

 4年に1度開催されるスポーツの祭典、オリンピック。その公式計時となる、“オフィシャルタイムキーパー”を務めるということは、オリンピック全体の時間計測に関わるすべてを任せられるという、非常に大切なポジションである。
 オフィシャルタイムキーパーとは、競技大会などで計時を担うメーカーのこと。1960年代までは人の目によって記録測定されており、3人の判定結果を総合して記録していたが1964年の東京オリンピックによってスタートからゴールまでの間に人間の目視や手を介さない、機械による計測システムが導入された。

 1896年に開催された第1回アテネ大会には“ロンジン”のストップウオッチが採用された。しかし、全種目の計時を任されたメーカーは、1932年ロサンゼルス大会での“オメガ”が初。以降、今年開催された東京2020オリンピックも含めると、29回ものオフィシャルタイムキーパーを担っている。
 ちなみにオメガがオフィシャルタイムキーパーを務めた1948年開催の冬季オリンピック、サンモリッツ大会および同年のロンドン大会では、初となる目視による判定ではない、光電子写真装置が一部導入された。
 なお厳密には、29回務めた内、6回が1972年にオメガとロンジンが共同で設立した競技会の計時専門会社、“スイスタイミング”社が担っており、現在はオメガの子会社となっている。

1964年の東京大会で使用されたものと同じ、89系と呼ばれる機械式ムーヴメントを搭載した競技用ストップウオッチ。1/10秒計測(左)や1/5秒計測、1/100秒計測(右)が可能なタイプまであった(写真:ロービート17号より)

 ほかにも1920年のアントワープ大会、1924年のパリ大会、1928年のアムステルダムでは“ホイヤー(現タグ・ホイヤー)”、1972年のミュンヘン大会には“ユンハンス”と、オフィシャルタイムキーパーを務めたのはごく限られた一部の時計メーカーだったことがわかる。
 そんななか 当時、スポーツのタイム計測の知識がない“セイコー”が、画期的なストップウオッチなどの開発によって正式に公式計時に指名された。1964年の東京大会でのことだ。
 大会まで期間が迫っていたため、観客用大時計などの大型のものを精工舎、ストップウオッチや水泳用電子計時装置を第二精工舎、そしてロードレースの親時計などとして持ち運びができたクォーツのクリスタルクロノメーターを諏訪精工舎で分担して開発したという。
 こうした画期的なトータル計測システムの開発により、計時、計測についてのクレームが発生しなかった初めてのオリンピックと称された。

 

文◎松本由紀(編集部)

<参考文献>
・オメガ公式サイト>オメガワールド>オリンピック
・セイコー公式サイト>ホーム>スポーツと音楽>セイコーとスポーツ>セイコーとスポーツの歴史

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