近年はムーヴメントを自社で製造するメーカーが増えてきた。しかしこれには莫大な開発コストが掛かるため、特に中小規模の時計メーカーや価格帯の低い機械式時計を扱う時計メーカーでは、外部のムーヴメントメーカーが製造したエボーシュ(半完成状態のムーヴメント)を仕入れているところがいまだ圧倒的に多い。
こうしたエボーシュの供給元として最も有名なのがスウォッチグループに属するETA社だ。
しかし、このETA社がグループ外へのエボーシュ供給量を減少すると発表。これを受けて様々な新興エボーシュメーカーが台頭。その先鞭となったのは、以前よりETA社ムーヴメントの組み立てを請け負っていたセリタ社である。
同社では、オリスの全面サポートを得て、ETA社のムーヴメントで特許の切れたもの再生産。これが、いわゆるジェネリック・ムーヴメントと呼ばれるものだ。同社では3針のキャリバー2892や2824、クロノグラフの7750といったETA社ムーヴメントの代替機を手がけている。
その後、セリタ社のようにETAムーヴメントの代替エボーシュを手がけるメーカーが徐々に増え始めた。ソプロド社やコンセプト社などが有名だ。
こうした代替エボーシュは、一見してETA社ムーヴメントと違いがわからないものが多い。同じ設計図のもとで製造されているのだから当然と言えば当然だろう。
ただ微細なパーツまでは忠実に再現できなかったようである。地板やローター、受け、緩急針回りといった比較的大きなパーツはETA社ムーヴメントと互換性があるが、歯車系を中心とした繊細なパーツはわずかに異なっているようだ。ジェネリック・ムーヴメントと呼ばれながらも実は互換性は“60%程度”と言われている。
ETAとセリタ、それぞれの自動巻き機構(写真上)と角穴車(同下)の比較。一見しただけでは違いはまったくわからないが、歯車など繊細なパーツに微差がある
もちろんこうした差異があることはセリタ社でも把握しており、互換性のあるパーツとそうでないパーツを公表している。また、このことで精度が極端に落ちるということもないため、代替エボーシュ自体を必要以上に敬遠することはないだろう。
ETAの代替機を展開するムーヴメントメーカー
コンセプト社
2006年に設立された新進のエボーシュメーカーで、ETA7750の代替機Cal.99001の製造を行っており、ETA2824の代替機の開発にも成功。驚くべきはパーツの加工精度の高さであり、いずれもETAとの互換性は100%を実現しているという。またヒゲゼンマイを含む調速機の自製も行っている
ソプロド社
ETA2892-A2の代替機であるCal.A-10を進化させたA10-2を年間12万個生産。同社の特徴は、このA10をベースに、クロノグラフやパワーリザーブインジケーターなど、様々なモジュールを付加して展開しているところ。さらにヒゲゼンマイやテンプといったキーパーツのほとんどを自製しているというから驚きだ
文◎堀内大輔(編集部)