セイコー創業140年のアニバーサリーモデルとして、キングセイコーの復刻版がリリースされることになった。キングセイコーというとオールド国産時計ファンにはなじみ深いモデルだが、若い時計ファンにはピンとこない人も多いかもしれない。ということでまずはキングセイコーというモデルが、セイコーの歴史のなかでどういう位置づけにあったかを解説していこう。
今回復刻されたモデル(左)と1964年から製造が開始された第2世代キングセイコー(中・右)。一見して違いがわからないほど忠実に再現されている
キングセイコーはグランドセイコー発売の1年後、1961年に生まれたモデルだ。開発と製造を手がけたのは亀戸にあった第二精工舎で、当初はクロノスに使われていた手巻きのCal.54Aをベースにしたムーヴメントを搭載。グランドセイコー(こちらは諏訪精工舎が開発・製造)に次ぐ高級ラインだったが、価格はグランドセイコーの半分程度に抑えられていたこともあって、頑張れば手が届くという絶妙な位置づけだった(価格は1万5000円で、これは当時の上級国家公務員の初任給1万2000円を上回る)。高度成長期の庶民が憧れた時計だったといえよう。
64年になるとキングセイコーも第2世代に移行。ムーヴメントはハック機能が搭載されたCal.44系にバージョンアップされ、さらに初期型にはなかった防水機能も備えるなど、実用性は大幅にアップ。後にこのムーヴメントはクロノメーター認証も受けるようになり、精度の高さも指折りだった。デザインはシンプルだがシャープな雰囲気を漂わせており、現代の視点で見ても非常に完成度が高い。この第2世代は通称“KSK”と呼ばれ、当時ベストセラーとなったことから現存数も多く、中古市場ではいまでも根強い人気を誇っている。
その後のキングセイコーは10振動のハイビート化、自動巻きムーヴメントの採用といった進化を経て、クォーツの時代には“キングクォーツ”として生まれ変わり、80年代までリリースされる非常に息の長いモデルとなった。グランドセイコーとともに、高度成長期のセイコーを象徴するラインだったわけだ。
■Ref.SDKA001。SS(38.1mm径、11.4mm厚)。5気圧防水。自動巻き(Cal.6L35)。38万5000円
今回の復刻版は、現在もファンが多い第2世代のKSKをモチーフにしている。ディテールに至るまでかなり忠実に再現しており、オリジナルのキングセイコーを知る人にもかなりインパクトある仕上がりだ。エッジがしっかりと効いている端正なケースに、角が立ったラインが美しいラグを備え、いかにも生真面目なルックスに仕上がっている。
サイズはオリジナルの36.7mmから38.1mmへとボリュームアップされているが、全体のバランスを壊すことなく仕上げている。また風防はオリジナルのアクリル風防からサファイヤクリスタルに変更され、文字盤全体をぐっと盛り上げるようなボックス型の形状が立体感を高めているのが印象的である。さらにセイコーが得意とする多面カットのインデックスや深みのあるトーンの文字盤など、全体の質感はオリジナルよりもハイレベルだ。
どちらかというとシンプルで質実なデザインだが、ケースバックにはオリジナルにも採用されていた盾をモチーフにしたクレストマークをメダリオンとしてあしらい、ストラップもクロコダイルを組み合わせるなど、高級モデルとしてきちんと仕上げられている。ストラップのバックルにはクラシカルなセイコーロゴ、リューズにも防水時計であることを示す“W”ロゴをあしらうなど、クラシカルな味付けにも怠りがない。
肝心のムーヴメントは、オリジナルが手巻きだったのに対し、今回は自動巻きのCal.6L35に更新されている。Cal.6L35は2018年に開発され、セイコー プレサージュなどに採用されてきた現行では最も薄型の自動巻きキャリバーで、そのためケースの厚みもオリジナルより0.5mmアップに留められている。8振動(2万8800振動/時)のハイビートで高い精度を誇ると同時に、巻き上げ効率のアップも図られており、パワーリザーブは45時間と実用的なスペックを備える。クラシカルなデザインに最新の薄型ムーヴメントを合わせている点が心憎い。
今回の復刻版を数人のオールドウオッチファンに見てもらったが、その完成度には誰もが納得していた。オリジナルを大事にしつつ、現代風のサイズ感やディテールなどが絶妙に味付けされており、いまの時代にもフィットした実用時計として確立させたモデルといえるだろう。38.1mmでやや薄めのサイジングは、スーツとの相性も高くビジネスウオッチとして使いやすい。世界限定3000本の発売ということだが、30万円台という価格を考えるとコストパフォーマンスは高く、新たな1本を探している人には狙い目モデルとして強くオススメしたい。
構成◎堀内大輔(編集部)/文◎巽 英俊/写真◎編集部
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