ロレックス @kikuchiのいまどきの時計考

菊地の【ロレックス】通信 No.071|なぜロレックスは多くの支持を集めるのか?|四つの理由。其の三 『高精度自動巻きムーヴメント』

 3回目の今回は、前回取り上げた“頑強さ”と同じく、愛好家から評価が高い“高精度”についてである。筆者もアンティーク、現行ともに所有しているが、40年以上も前のアンティークであっても、その精度の高さには正直驚かされる。もちろん現行モデルであれば言わずもがなだ。

 ロレックスが“高精度”を誇る理由は、もちろん時計の心臓部である自動巻きムーヴメント(中身の機械)が優秀だからに他ならない。そんなロレックスの歴史は自動巻きムーヴメント開発の歴史と同義と言っても過言でないのかもしれない。そこでここではムーヴメントのメカニズムなど技術的なことではなく、高精度な優れた自動巻きムーヴメントが開発された大まかな背景について触れたいと思う。

1989年に生産が開始された3100系のデイト付きCal.3135。今年サブマリーナーデイトが最新版3200系に移行されまで約30年間も生産された傑作ムーヴメント。ちなみに派生のCal.3187は現在もエクスプローラー II に搭載されている

 ロレックスが自社製の自動巻きムーヴメントを完成させたのは1931年(33年とも)のことだ。何といまから90年近くも前のことである。新たに開発した自動巻き機構(パーペチュアル機構)を既存の手巻きムーヴメントの上に載せて完成させた。世界で初めての360度全回転型で片方巻き上げ式の半円形ローター(回転錘)を採用、ゼンマイの巻き上げ効率を飛躍的に向上させた革新的なムーヴメントだ。

 ちなみに自動巻き機構とは、装備するローター(写真下)と呼ばれる半円形の錘が、腕の動きに応じて回転することで自動的にゼンマイを巻き上げてくれるという仕組み。そのためわざわざリューズを回して手でゼンマイを巻く必要がないという便利な機構。現在世に出回っている機械式時計のほとんどが自動巻きと言っていい。

半円形のローターが360度回転しゼンマイを巻き上げるロレックスが開発した世界初の自動巻きムーヴメント、Cal.NA。ローターが出っ張っているのがわかる

 余談だが、創業者のハンス・ウイルスドルフが自動巻きムーヴメントの開発にいち早く取りかかった背景には、ロレックスはネジ込みリューズを備えた高防水のオイスターケースをすでに開発し天敵である水に対処できていたのだが、当初は中の機械が手巻きムーヴメントだったために、ゼンマイを手で巻いた後にリューズを締め忘れ、結局はそこから水が入ってしまうという人的ミスが起きてしまう。つまり、それをなくすにはその作業を省くこと。そのために自動巻きの開発に力を注いだと言われているのだ。

 こうして作られた自動巻きの初期のモデルは、手巻きの機械の上に自動巻き機構を載せたもののため、ローターが張り出してしまう。それを納めるためにケースの裏ブタはぷっくりと膨らんだ形状(写真下)だったのだ。その見た目が泡のようだったことから、後に愛好家の間で“バブルバック”の愛称で呼ばれるようになり珍重されたことは有名な話だ。

初期の自動巻きムーヴメントを搭載したモデルの裏ブタは、ご覧のようにローターを収めるために膨らんできる。この泡のような膨らみからバブルバックの愛称が生まれた

 ただ、当時の腕時計といえば主流は小振りで薄い、このケースの厚みはその意味で致命的だったのである。そのため薄くするために改良に改良を重ね、1950年代初めにそれまでの手巻きベースではなく、専用設計の自動巻きムーヴメント、Cal.1030を完成させる。この1000系自動巻きムーヴメントは、薄くなったばかりか、片方巻き上げからローターが左右どちらに回転してもゼンマイが巻き上がる両方向巻き上げ式を実現、ゼンマイの巻上げ効率がさらに向上した。そしてこれこそがロレックスにとってエポックメーキングな発明となったのである。

 この1000系の完成によってロレックスの自動巻きムーヴメントはさらに改良が重ねられ1500系、3000系、3100系、そして2015年に登場した最新版3200系と受け継がれ、60年以上にわたって進化を遂げてきている。

トップの写真と同じ3100系。約30年間の生産期間の間にも改良が加えられている。2000年頃からヒゲゼンマイが独自開発の合金を使用。ブリッジ中央の耐震装置も独自のパレフレックス・ショックアブソーバーに改良され、精度の安定性と耐衝撃性が高められた

 現在、人気のサブマリーナーやエクスプローラー、GMTマスターは、この1000系が完成した頃に誕生している。そして、これらの歴代モデルは、そのほとんどはムーヴメントが改良されるごとにモデルチェンジが実施され、新しいレファレンスナンバーが与えられているのだ。その意味では進化の系譜は大まかな部分で言えばとてもわかりやすいのもロレックスの特徴なのである。

 さて、ロレックスのムーヴメントは「組み上げただけでもある程度の高精度が出る」という話を時計技術者からよく聞く。それだけロレックス独自の様々な技術が生かされているということだ。具体的な内容については割愛するが、もし詳しい内容を知りたい方は、現在発売中の『ゼロからわかるロレックス3(交通タイムス社)』をぜひ参照してもらえればと思う。

 そしてもうひとつ、アフターメンテナンスのことを考えた設計についてもロレックスの自動巻きの美点としてよく挙げられる。つまり、ムーヴメントにおいても高精度や耐久性はもちろん、メンテナンス性についてもしっかりと考えられており、長く使うことを前提として常に開発されてきているのだ。実はこのことも高い評価を得ている大きな理由のひとつなのである。

菊地 吉正 - KIKUCHI Yoshimasa

時計専門誌「パワーウオッチ」を筆頭に「ロービート」、「タイムギア」などの時計雑誌を次々に生み出す。現在、発行人兼総編集長として刊行数は年間20冊以上にのぼる。また、近年では、業界初の時計専門のクラウドファンディングサイト「WATCH Makers」を開設。さらには、アンティークウオッチのテイストを再現した自身の時計ブランド「OUTLINE(アウトライン)」のクリエイティブディレクターとしてオリジナル時計の企画・監修も手がける。

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