ちょっと古い時計を取り上げる当企画。6回目の今回は、時計デザイナーの先駆けであり、オーデマ ピゲのロイヤルオークやパテック フィリップのノーチラスなど数々の名作を生み出した“ジェラルド ジェンタ”が、自身の名を冠したブランドで展開したジャンピングアワーとレトログラードを駆使したユニークなレトロシリーズを取り上げる。
ジャンピングアワーとは、時針で時を指し示すのではなく、ディスクにプリントされた1から12までの数字を1時間ごとに小窓に表示させる手法で、この時表示がジャンプして瞬間的に切り替わるためジャンピングアワーと呼ばれる。
一方のレトログラードとはフランス語で「逆行」を意味している。つまり、本来時計の針は時針にしても分針にしても360度円を描くように運針するのが一般的だが、それに対してレトログラード機構の場合は、一定の位置まで針が運針するとバネの力でゼロ位置まで一瞬で戻り再び進み始める、これを何度も繰り返すというものだ。この機構自体は懐中時計の時代だった18世紀半ばには存在していたと言われるぐらい、実は歴史的にかなり古い。
右が28mm径、左が33.5mmと小振りな自動巻モデル
ジェラルド ジェンタは、自身のブランドでこの両機構を巧みに利用してデザインしたレトロシリーズを1996年にリリース。その独創性から瞬く間に注目を浴び、同ブランドを代表するアイコン的コレクションとなったというわけだ。
なかでも話題を呼んだのがここに取り上げたディズニーのキャラクターを使った“レトロファンタジー”というシリーズ。キャラクターの右腕が分針代わりとなって、扇状に配されたレトログラード式分表示を1秒毎に運針する。そして60秒までいくと瞬時にゼロに帰針して再び動き出すというもの。ちなみに時表示は6時位置の小窓にデジタル表示されるジャンピングアワーだ。
実のところジェラルド ジェンタは、ディズニーのライセンスを取得し1984年からディズニーのキャラクターウオッチをリリースしていた。ある資料によると、このレトロファンタジーはブルネイ王国からの要望からオーダーで製作され、後に商品化されたものらしい。
さて、現在の中古での実勢価格を調べようとネット上で検索してみたところ、4本が出てきたものの何と300万円台後半から400万円という値段がついていてかなり驚かされた。ちなみにクォーツモデルは70〜80万円台。
なお、ジェラルド ジェンタという時計ブランド自体は2000年からブルガリグループの傘下に入っており、ブランド創立50周年を迎えた2019年にブルガリは、その記念としてアリーナ レトログラードを復活。その一環として2021年に「ジェラルド ジェンタ アリーナ レトログラード スマイル ミッキーマウス ディズニー」として、レトロファンタジーの現代版を限定リリースした。公式ウェブサイトだけの販売だったが、あっという間に完売し、今後の販売は未定とのこと。