鉄に10.5%以上のクロムを配合したステンレススチールは、錆びにくく強度も高い合金として、時計ではポピュラーな素材だ。クロム以外にもニッケル、マンガン、モリブデンなど様々な金属を配合することで、耐食性や光沢を高める工夫がなされており、高級時計メーカー各社が新素材の開拓に余念がない。
高級時計においてよく使われるのが、316Lというステンレスだ。モリブデン含有量を高めたことで一般的なステンレスよりも耐食性が高く、特にダイバーズウオッチに採用されることが多い。しかし、硬度が上がるため加工は難しくなり、コストも高くなる。
その上をいくクオリティを誇るのが、904Lだ。こちらはクロムの含有量をさらに上げており、強度や耐食性は大きくアップ。金属アレルギーにも強い。ステンレススチールの最高峰といわれる高級素材で、以前はロレックスのみがこの素材を使っていたが、近年になってジラール・ペルゴのロレアート、ジンやボール ウォッチの上位モデルにも採用されるようになった。
加えて時計ケースの高級化が進んだことで、独自に新しい合金スチールを開発するブランドも増えてきている。ショパールがアルパインイーグルで採用した“ルーセント スチールA223”は開発に4年もかかっており、プラチナのような高級感ある光沢が特徴だ。ほかにもジンの“Uボートスチール”、チャペックの“XOスチール”なども注目に値する。こうした新素材に関して合金の割合や製造過程が明かされることは少ないが、ステンレスも日々進化していることに注目すると、時計選びもまた楽しくなるだろう。
ルーセント スチール A223(ショパール)
ショパールが4年の歳月をかけて開発した新たなステンレススチールで、従来のステンレスよりも硬度が高く傷に強い。色味が白っぽくてプラチナのような光沢があり、これがアルパインイーグルの高級感を大きく高めている
エバーブリリアントスチール(セイコー)
塩に対する耐食性が強い世界最高レベルのスーパーステンレスで、海洋開発分野で使われていた素材だが、セイコーは独自技術で時計に採用。加工が難しい素材だが、それだけに堅牢性も高く、ダイバーズウオッチに適している
アイス硬化ニッケルフリーステンレススチール(ダマスコ)
ダマスコはドイツの先進金属会社の系列下にある時計ブランドで、ステンレススチールについては強みがある。一般的なステンレスの4倍以上の硬度になる素材で、傷には抜群の強さを誇る。ニッケルを含有しないのでアレルギーにも強い
文◎堀内大輔(編集部)