一般的な機械式クロノグラフは、センターのクロノグラフ針が60秒で1回転する。つまり通常の秒針と同じだ。
ただ本格的なスポーツクロノなどでは、1秒以下のスケールを備えたモデルが結構あるため、目を凝らせばコンマ単位でのタイム計測も可能である。
ロレックスのデイトナでは1秒の1/5、つまり0.2秒刻みで目盛りが記されている
だが、なかにはさらに優れた計測精度を追求したプロフェッショナル向けのモデルが存在している。
そのひとつがゼニスのデファイ エル・プリメロ21だ。このモデルでは、センターのクロノグラフ針がなんと1秒で1回転し、1/100秒単位での計測が可能なのだ。
さて、ここで気になるのは、こうしたモデルではいかにして針の高速回転を可能にしているのかという点だろう。
その答えはずばり“高振動化”である。
機械式時計の振動数は、ハイビートと呼ばれるものでも毎時3万6000振動だ。これに対してデファイ エル・プリメロ21に搭載するムーヴメントでは、その10倍、毎時36万もの振動数(クロノグラフ部のみ)を与えて、高速運針を実現しているのだ。もっとも、高速で運針させるためにはエネルギー量や針の重量などクリアすべき課題は多いが、理論上、振動数を高めれば高めるほど、早く運針させることができ、より少ない単位での計測が可能になる。
実際、市販品ではないが、2012年にタグ・ホイヤーが発表したマイクロガーター 5/10,000thでは、毎時720万という圧倒的な振動数(クロノグラフ部のみ)を与え、機械式時計にして、5/10000秒単位という驚くべき計測精度を実現。センターの針は1秒間になんと20周というスピードで運針するため、その動きは目視できないほどだ。
タグ・ホイヤーが2012年に発表したコンセプトモデルのマイクロガーター 5/10,000th
一般的なクロノグラフでさえ、日常生活で使用する機会が少ないといわれる昨今では、ゼニスの1/100分秒計でも“オーバースペックだ”と考える人は少なくないかもしれない。
だが、高速クロノはギミックとして見ていても面白いし、こうした技術の粋を結集した複雑なメカニズムを手にする喜びこそ、機械式時計の醍醐味のひとつとはいえないだろうか。
文◎堀内大輔(編集部)