【知っておきたい腕時計の基本】いまやほぼすべてのムーヴメントに搭載される“耐震装置”の重要性

 腕時計はまさに字のごとく、腕に着用し携帯する時計だ。
 1日の活動のうち、腕を静止した状態の時間はほとんどなく、それだけにその腕に巻かれた腕時計のムーヴメントには大なり小なりの震動が常に伝っており、ときには強い衝撃が加わることもある。精密機器であるムーヴメントにとって、こうした継続的な震動や衝撃が当然良いわけがなく、弱点のひとつといえる。

 なかでもとりわけ繊細なパーツである天真は、振動や衝撃の影響を受けやすく、折れやすい。懐中時計時代において、故障原因の多くが“天真折れ”だったともいわれているほどだ。
 その後、天真折れを防ぐ目的で開発されたのが、“耐震装置”と呼ばれるものである。正確な年は定かではないが、1930年半ばには開発されていたと言われている。

 この装置は、天真を受け止めている穴石、受石を、さらに耐震軸受けバネによって押さえる構造となっており、震動や衝撃が加わった際には、そのバネの弾力によってショックを逃がすという原理である。また、より強い衝撃が加わった場合は、バネが外れて受石が飛び出す構造となっているため、天真が折れるということはほとんどなくなった。

 単純な仕組みながらその効果は絶大であり、以降、耐震装置はほとんどのムーヴメントで採用されるようになった。むしろ今日においては耐震装置を装備しない個体を見つけるほうが困難なくらいである。さらに驚くべきことに、その基本原理は80年以上を経た現在もほとんど変わっていない。一方で、より性能向上を目指した試行錯誤はいまも続いており、今日その形状には様々な種類がある。

 現在、多くのメーカーが採用する耐震装置が“インカブロック”と呼ばれる種類だ。これは円の両端が窪んだような形をしたバネで受石を支えており、正面からの衝撃に強い。その反面、半固定の構造であるため、真横からの衝撃には弱く、また復元性が高いとは言い切れない。

【インカブロック】最も有名な耐震装置がインカブロックだ。装置として耐久性が高いことから、スポーツ系からドレス系まで幅広いモデルに採用される

 そしてもうひとつ代表的な耐震装置が“キフ”である。こちらはインカブロックとは対照的な性格を持ち、洋ナシ形のバネで、受石により自由度を持たせることで復元性が高められている点が特徴である。ただこれにもあまり強固ではないという弱点があることから、ドレス系モデルなどの高級機で採用されるのが一般的だ。

【キフ】高級機種に好んで採用されている耐震装置がキフである。インカブロックよりもバネの自由度が高く復元性に優れている

 この2種が現在広く採用されている耐震装置だが、2000年以降、独自の耐震装置を開発するメーカーも増えてきた。ロレックスが2006年に特許を取得した“パラフレックス”もそのひとつ。これは非常に優れた耐震装置で、独特の形状のバネは強い衝撃を受けても外れにくく、従来に比べ耐衝撃性は最大50%もアップしているという。
 時計のスペックとしてあまり注目されることはない耐震装置だが、実はかなり重要な役割を担っているのだ。

ロレックスが2006年に特許を取得した“パラフレックス ショック・アブソーバー”。耐震軸受けバネの中央に設けられた四角い部分が受石を均等の力で押さえフラットな状態を保持することで、テンプの重心を中心からズレにくくしている

オメガが8500系キャリバーから採用している耐震装置が“ニヴァショック”と呼ばれるもの。こちらはT時形の二つのバネによって受石を押さえている

 

文◎堀内大輔(編集部)

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