クロノグラフの名門“レマニア”ベースのもうひとつの名機

 かつて、機械式腕時計の黄金期と言われるほど全盛期だった1930年代のスイスの時計産業には約500社の時計メーカーがあったと言われている。しかしながら、それを支えていたのは、その10分の1に満たないほどの数のムーヴメントメーカーだった。

 そのため、ブランド名こそ違えどもベースとなる中身の機械は同じものということがほとんどだったのだ(これは現在も同じ)。つまり、ムーヴメントまで製造できる時計メーカーはほんのひと握りで、ほとんどはムーヴメントメーカーが供給するエボーシュと呼ばれる半完成品ムーヴメントをベースに、改良や仕上げを施して時計を製品化していたのである。特にクロノグラフのムーヴメントが作れるメーカーは極めて少なかった。

 実は月に携行された初の腕時計として“ムーンウオッチ”の称号をもつスピードマスターを作ったあのオメガでさえ、最初の腕時計用クロノグラフムーヴメントとして42年に発表したCal.27CHRO C12(後にCal.321として初代スピードマスターに搭載される)は、当時オメガと同じSSIHグループ(スウォッチ グループの前身)に属し、クロノグラフなど複雑系ムーヴメントの製造を得意としていたレマニア社(現在はブレゲに吸収される)の設計・製造だったのである。

右がレマニアで左がオメガのクロノグラフ。ムーヴメントが同じというだけはでなくデザインも似ているが、価格は桁が違うほどオメガは高額

 さて、前置きが長くなったが、今回取り上げたのはそんなオメガ初のクロノグラフではなく、そのベースとなったクロノグラフムーヴメントで、オメガとレマニアが同グループとなった32年以降に、レマニアが初めて開発した、Cal.15TLを搭載した個体(写真右)である 。そして、同じものがオメガ名でも製品化(同左)されており、オメガの場合のキャリバー名はCal.33.3 CHROだ。

 両者でムーヴメント名の数字が違うのはムーヴメントサイズの表記をレマニアがリーニュ、オメガがミリと、単位の違いによるものだ。ただし、分積算車と秒積算車のブリッジ形状や、リセットハンマーの規制バネがオメガ用にのみ追加されている点など、レマニア用の15TLとオメガ用の33.3とでは、多少の変更点があることが見て取れる。

右がレマニアのCal.15LT、左がオメガのCal.33.3。どちらも17石で毎時1万8000振動

 ただ、このように一部改良されているとはいえど、ムーヴメント自体はほとんど同じだ。しかしながら市場価格となるとこれがレマニアとオメガでは桁が違ってくるほどオメガは高額。特に今回取り上げた黒文字盤にスネイルタキメーター(中央にある渦巻き状のスケール)を配した緻密なデザインモノは海外でもかなり人気が高いため、オメガに至ってはオークション級となってしまう。ある意味これが知名度の差ということになるのだろうか。

菊地 吉正 – KIKUCHI Yoshimasa

時計専門誌「パワーウオッチ」を筆頭に「ロービート」、「タイムギア」などの時計雑誌を次々に生み出す。現在、発行人兼総編集長として刊行数は年間20冊以上にのぼる。また、近年では、業界初の時計専門のクラウドファンディングサイト「WATCH Makers」を開設。さらには、アンティークウオッチのテイストを再現した自身の時計ブランド「OUTLINE(アウトライン)」のクリエイティブディレクターとしてオリジナル時計の企画・監修も手がける。

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