女性編集者・佐波が、女性の視点で興味を持った時計を、テーマごとに紹介。今回は、ロマンチックな雰囲気が魅力的な機械式時計の伝統機構“ムーンフェイズ”をクローズアップしてみた。
ストップウオッチ機能を備えたクロノグラフや、二つの国の時間帯を同時に表示するGMT機能など、時計にあまりなじみのない人には使いこなすのが難しそうな機構も多い機械式腕時計。しかし、使い方をマスターせずとも、見た目だけでその魅力を楽しめる機構もある。そこで今回紹介したいのが、“ムーンフェイズ”だ。まずは、時計の紹介の前に“ムーンフェイズ”について簡単に解説したい。
ムーンフェイズとは、新月から満月までの月齢(月の満ち欠け)を表す機能のことを指す。その歴史は古く、一説には16世紀の大航海時代にはすでに懐中時計に搭載されている伝統的な機構のひとつだ。もともとは船乗りが星の位置により自らの位置を割り出したり、潮の満ち引きを確認するために開発された機構とされており、海で活動する人々にとって重要な機構であったとされている。
現代の生活では、正直言ってあまり実用性のある機能ではないのだが、月の満ち欠けという、壮大な宇宙のスペクタクルを、小さな腕時計のなかで表現するという発想と、機能的な美しさはほかにはない魅力を感じさせる。歴史や技術的な背景など、難しい話を置いておくとしても、その見た目の美しさだけでも、多くの人が楽しめる時計ならではの機能のひとつといえるだろう。
“ムーンフェイズ”を搭載した時計は様々なブランドから発売されているが、今回はそんななかでも、ちょっと一般的なものではないが、私自身が魅力的だと感じたムーンフェイズを大きく配置した時計や、特徴的な機構を採用したモデルを3本選んでみた。ムーンフェイズ自体、ここに取り上げた高額なモデルばかりではない。クォーツ時計であれば数万円から存在する。
ぜひ、これを機会にムーンフェイズモデルをチェックしてみてはいかがだろうか。
◇おすすめモデル 01
LE RHÖNE
ル・ローヌ
ヘドニア グランムーンフェイズ デ リュヌ コンプリケーション
一般的なムーンフェイズ搭載の腕時計は、文字盤上の小窓に小さく表示されているものが多い。しかしこのモデルはマザーオブパールの月が大きく大胆に配された、ムーンフェイズの機構を主役として楽しめる時計だ。その表示方法は独特で、大小2層の文字盤のうち固定された1層目のディスク(ハート形)の下を、マザーオブパールが配された2層目のディスク(二層目の文字盤全体)が360°回転することにより月相を表現。文字盤全体で夜空を再現したような構造で、個人的に大好きなモデルだ。
現在発売されているのはこの41㎜径のサイズのみだが、今後ケース径37㎜の小振りなモデルの入荷も予定している。
◇おすすめモデル 02
ARNOLD&SON
アーノルド&サン
HMパーペチュアル・ムーン・アベンチュリン
122年間調整が不要な高精度のムーンフェイズ機構を搭載した、HMパーペチュアル・ムーンの新作。
時計の伝統的な装飾技法である、ギョーシェが施されたムーンディスクには、18金レッドゴールドの月が配されている。細かいクレーターまでよく再現された立体的な細工が施されており、まるで本物の月を圧縮して時計の文字盤に閉じ込めたかのような、リアルな質感に仕上げられている。時計愛好家のみならず、天文学ファンをも虜にしそうなモデルだ。
星空をイメージさせるアベンチュリンダイアルや、月や星座をレイアウトしたムーンディスクの美しい装飾に引きつけられるのは、私だけではないはず。
◇おすすめモデル 03
SARPANEVA
サルパネヴァ
コロナ ルネイション
通常よりも部品数を増やした独自の機構を採用してすることで、14000年にたった1日の誤差を実現した超高精度なムーンフェイズ。人生100年時代といわれる現代だが、さすがにこれを読んでいる読者は調整の心配をしなくていいだろう。
注目は光ファイバー技術を使って月の陰影を表現してした、ムーンフェイズの機構。
6時位置のムーンディスクは、光ファイバー技術により作られている。新月の状態はグレーがかった色味をしており、その下を金属製のディスクが月齢に合わせて回転していく。金属ディスクが重なった部分が明るくなり、月の満ち欠けを表現しているというわけだ。
幾何学的なスケルトンダイアルのインダストリアルな雰囲気と、ムーンフェイズの組み合わせがなんとも言えず、ミステリアスな雰囲気を感じさせる。満月に近づくに連れて立体的な顔が見えるようになるので、満月が待ち遠しくなりそうな時計だ。
文◎佐波優紀(編集部)