ブルガリのソロテンポ。革ベルトで落ち着きのある雰囲気の1本。演出家の石井ふく子さんから貰った思い入れの強い時計だ
『渡る世間は鬼ばかり』をはじめとしたホームドラマの常連として活躍する岡本さん。どうしても中華「幸楽」の従業員として白衣を着ているイメージが強く、腕時計のイメージは薄い。
「今日みたいにジャケットを着るときには時計をするようにしてますけど、撮影の仕事のときはやはりすぐに衣装に着替えちゃうんであまりしません。時代劇も多いけど、そっちでも時計は邪魔ですしね。普段はもっぱらケータイで、プライベートでも時計をする機会は決して多くはないかな」
それほど時計に興味はないというが、ご持参いただいたコレクションはユニバーサル、ハミルトンなどなかなか渋いセレクションだ。
「最初に買った時計はセイコーのダイバーズ。基本的にはシンプルで見やすい時計が好きです。今持っている時計はほとんどが貰い物です。いつの間にかそこそこ数は集まっちゃいましたね」
愛用の1本としてピックアップしたのはブルガリだった。この時計には特別な思いがあるという。
「手に入れたのはもう15年ほど前で、石井ふく子先生にいただいたんです。先生がプロデュースなさっている舞台に何度も出していただいているんですが、ある舞台の千秋楽に先生に呼び出されましてね。叱られるのかと思ったら、時計をくれるって言うんです。先生はいつも主役級の女優さんたちにプレゼントを贈っているんですが、自分は貰ったことがなかったから、ちょっと驚きましたね。自分のことを気遣ってくれたっていうのがすごくうれしくて、自分にとって特別な時計です。シンプルで、すっきりしたデザインなので使いやすいですしね」
一方でこうしたドレッシーなモデルだけでなく、スポーティブな時計にも興味があるようだ。
「タグ・ホイヤーみたいな精悍な時計は永遠の憧れですね。役者として駆け出しの頃、仲間たちはみんな青春ドラマに出ていたんですよ。ぼくはその頃に石井ふく子先生や橋田壽賀子先生との出会いがあって、ホームドラマの方向に進んだんです。こっちの世界で貴重な経験をいっぱいさせていただきましたが、一方で青春ドラマの連中が羨ましいという気持ちもあった。あの手のドラマに出てると、やたらもてるんですよ(笑)。そういうのを羨ましく遠くから見ていたな。見果てぬ青春への思いが、ああいうデザインの時計に象徴されている気がするんです。今でもああいう時計を見ると、いいなって思ってしまいますね」
NOBUTO OKAMOTO 1948年1月2日、山口県生まれ。劇団ひまわり在籍時にNHKドラマで子役デビュー。68年に京塚昌子主演のTBS『肝っ玉かあさん』へのレギュラー出演をきっかけに、ホームドラマには欠かせないバイプレーヤーとして地位を確立していく。特に『ありがとう』、『渡る世間は鬼ばかり』など、石井ふく子プロデュース作品に多く出演しており、お茶の間でもすっかりおなじみに。ホームドラマ以外にも時代劇、映画、舞台と活動のフィールドは幅広い。