【価格破壊トゥールビヨンを実機レビュー】東京発のブランド“ゼロ”、クリスタルガラスケースに採用したトゥールビヨン

　時計好きには言わずと知れた、コンプリケーションの代名詞のひとつであるトゥールビヨン。１７９５年頃に、時計師アブラアン＝ルイ・ブレゲが発明したと言われる複雑機構のひとつだ。

　特徴的なのが、その独自の機構である。トゥールビヨンではヒゲゼンマイを含むテンプ、アンクル、ガンギ車などの脱進機と調速機をキャリッジ（カゴ状のパーツ）の中にまとめ、同時にキャリッジを強制的に回転させることで姿勢差による精度の差を平均化させている。

　キャリッジは重量バランスが取れていないとまともに回転せず、高度な調整技術で初めて機能することから熟練した職人の技術を要する。これがトゥールビヨンが高額になってしまう理由となっていた。

　だが、時計製造技術が進歩したことで機械により加工精度の高いパーツを作ることが比較的容易になり、20万円前後の手の届く価格から楽しめる“デイリーユースのトゥールビヨン”が登場。近年、そのラインナップを増やしている。

　今回は、そんな“デイリーユースのトゥールビヨン”のなかから、ユニークなデザイン、構造を採用したフルスケルトントゥールビヨンに注目し、実機レビューをお届けしていく。

【今回の実機レビューモデル】

ZEROO（ゼロ）
T5 ジ・アーチャー・クリスタル

　東京発の新鋭ブランド、ゼロが手がけるフルスケルトントゥールビヨン最新モデル。フライングトゥールビヨンを搭載するムーヴメントを弓形のフレームで固定する独創的なデザインに加え、今作ではケースにクリスタルガラスを採用しているのが最大の特徴。ドーム型の形状に仕上げたクリスタルケースのなかに、トゥールビヨンが浮かんでいるかのように見える独創的な意匠が目を引きつける。

■Material.：316Lステンレススチール、レザーベルト
■Size：42mm、厚さ12mm、ラグ幅21mm
■Waterproof：3気圧防水
■Movement：手巻き（Cal.ZT03）
■Price：36万8000円（硬度７の水晶ガラスケース仕様）
※硬度９のサファイアクリスタルケース仕様は、45万8000円

【ゼロ（ZEROO）のブランド紹介】
　トゥールビヨンを中心に、独創的なモデルを展開する東京初の時計ブランド。２０２０年にフレーム型のフルスケルトンケースを採用したトゥールビヨンモデル“Ｔ１”を発売して以降、外部委託をせずにインハウスで企画デザインを行うビジネスモデルを生かして次々と独創的なトゥールビヨンを発表。21年にはクラウドファンディングで支援総額2億円以上を達成している。今回、注目した“T5”は、同社が得意とするフルスケルトントゥールビヨンの最新形モデルだ。

【外装について】

　最も特徴的なポイントはムーヴメントを格納するケーストップがクリスタルガラスで出来ているという点だ。ケーストップの素材には硬度７の水晶ガラスと加工難易度の高い硬度９のサファイアクリスタル、価格違いで二つのクリスタルガラスを採用し、ドーム型の形状に成形。ケースの約三分の1をムーヴメントを見るための空間として確保。フロント部分はもちろんのこと、サイドからもフライングトゥールビヨン搭載ムーヴメントの造形をあらゆる角度から堪能できる。

　裏ブタはシースルーバックに仕上げられており、丁寧な肉抜き加工を施した手巻きムーヴメントを背面からも鑑賞することができる。香箱を二つ備えることで、60時間パワーリザーブを備えているのもポイントだ。

【文字盤のデザインについて】

　フライングトゥールビヨンを搭載している点もこのモデルの魅力だが、デザイン面でもうひとつアイコンとなっているのが、スケルトン仕様にデザインされたムーヴメントを固定するフレーム構造だろう。射手座の射手が持つ弓からインスパイアされた弓形のデザインが特徴となっており、曲線と直線をバランス良く組み合わせて洗練された意匠に仕上げている。フライングトゥールビヨンを搭載するムーヴメントの機能美を際立たせつつ、デザインにアクセントを加えている。

　歯車、香箱までスケルトンデザインで設計、製造された手巻きムーヴメントを搭載。射手座の射手の手にある弓を想起させるフレームにムーヴメントを固定することで、浮遊感を備えた独特のデザインに仕上げられている。

　トゥールビヨンは脱進機と調速機をキャリッジと呼ばれるパーツの中にまとめ、それ自体を回転させることで重力の影響を軽減させる機構。その複雑な造形に加え、1分間で1回転する独特の動きが最大の魅力だ。

【装着感について】

　ステンレススチールのボトムケースでクリスタルケースを固定する構造により、手首に直接トゥールビヨン搭載ムーヴメントを着けているような不思議な感覚を楽しめる。ラグの取り付け位置が下にあることに加え、ラグをカーブさせているためフィット感も良好だ。金属ではなく、けーストップをサファイアガラスで製造したことにより、約60グラムと、軽量な仕上がりになっているのもポイントと言えるだろう。