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【これぞ、究極の“振り子時計”!?】現代アートと振り子時計を融合した、注目の3ブランドを選出

》伝統的な振り子時計を芸術作品に高めた3人のアーティストに注目

 人間は文明が始まった頃から時間を計測したいという欲求をもっていたとされる。最も古典的なものとしては、紀元前4000年頃のエジプトで生み出された日時計が知られており、曇りの日や夜間には使えないという弱点があったものの、夜明けと日暮れの間を12分割して、季節ごとに午前と午後を記録していたとされている。

 その後、人類は穴の空いた器から流れる水を使って時間を計測する水時計、中世の船で航海用に発明された砂時計などを生み出し、その集大成として機械式時計を生み出したのだ。

 一説には、最初の機械式時計は11世紀のヨーロッパでキリスト教の修道士が生み出したとされ、 これらは14世紀にヨーロッパで普及し、教会や大聖堂で使用されるようになったという。
 
 最初の振り子時計はイタリアのガリレオ・ガリレイが1600年代初頭に行った振り子スイングの実験を受け継ぎ、56年にオランダの物理学者であり、天文学者でもある、クリスティアン・ホイヘンスによりに構築されるが、この振り子時計の原理は、長い月日を経ても、いまだに現代の時計に計り知れない影響を及ぼしている。

 振り子時計と聞くと、腕時計が主流となっている現代では過去の遺物のように思えるが、実は時間を表示する機械というカテゴライズを超えて現在に至るまで独自の進化を遂げている。

 今回は、そんな振り子時計をベースに、独自の作品を生み出している3人のアーティストでもあり時計師を紹介する。


【FLORIANSCHLUMPF(フロリアン・シュランフ )】

 スイスの中央に位置するルツェルン美術アカデミーを卒業後、同じくルツェルンにあるLucerne Uni-versity of Applied Sciences and Arts で機械工学の学位を取得した経歴を持つ、彫刻家のシュランフが立ち上げたクロックブランド。

 古い自転車で急な峠を登っていた際に一輪車のハブのアイデアを思いついたシュランフは、独自の自転車のギアシステムで特許取得。2011年にその特許と製造権を売却したのち、時計や独自の精密機器の製造を開始。 2014年に、世界最大級の時計の展示会として知られるバーゼルワールドの中庭に、約5m四方のサイズを誇るタイムマシーンコレクションの初号機“TM1”を展示して一躍その名を知られるようになった。

 シュランフの手がけるタイムマシンは、通常のクロックとは異なり、“秒や分という硬直したリズムから時間を解放し、時間をキネティックに表現”することを目的にした芸術作品である。時間を正確に計測するよりも、時間そのものを独創的に表現することに焦点を当てている。

TM3 シリーズ

 伝統的な時計の機械的な精度と現代アートに通じる感覚的な喜びを融合したタイムマシーンコレクションの代表作。TM3は摩擦を減らすために非接触シール付きのボールベアリングでサポートされたダブルスパイラルスプリングとアクセルによって駆動され、部品には、バネ仕掛けの技術で構築された特許取得済みのアンカーアームを採用。最小限のエネルギーでスムーズな操作を実現し、約7日間の駆動時間を備える。すべての部品はスイスで100%設計、製造、組み立てられている。

■アルマイト(サイズ:130 x 35 x 18 cm)。9500〜2万7000フラン (約112〜317万円)

》フロリアン・シュランフ公式サイト
https://www.schlumpf.swiss/index.php/en/


【CLOCKWRIGHT( クロックライト)】

 アメリカ・ミシガン州カラマーズーを拠点に活動している、アーティストであり時計師でもある、リック・ヘイルガ立ち上げたクロックブランド。 ミシガン州立大学で文学部を卒業した後、自身の人生の方向性に迷っていたヘイルは、独学で機械工学、時計製造、物理学、時計学の理論を学び、趣味であった木工に興味を持ちはじめる。

 その後、ヘイルは機械工であった亡き父が教えてくれた知識と、自身が学んだ様々な分野の知識を生かし、時計作りに挑戦。時計学の理論と木工への情熱を融合させた、独創的なクロックを生み出すことになる。

 ヘイルは時計を作る際に二つの哲学を掲げている。ひとつは、“時間は生物にとって過酷なもので物理的に形がゆっくりと失われていく。その失われていくことを共に学び、成長し継承する”こと。 二つめは、“ハリソン、ブレゲ、バージェス、アンフィールド、トムピオンなど、ヘイルがお気に入りの時計師のメカニズムの輝きを認識、そして継承する”こと。彼は、巨匠たちから学んだことを自身の作品に反映して世界に発信したい、と述べている。

ウインド&ウオーター

 2020年に完成した Wind & Water。18世紀にイギリスの大工兼時計職人のジョンハリソンが開発した木製の時計の車輪にオマージュを捧げた作品となっており、ハリソンが300年以上前に開発した方法に従いつつ、ムーヴメントの構造を視覚的にクローズアップしたモダンなスタイルを生み出している。木製の歯車と聞くと、温度や湿度により個体差が生じて精度に影響しそうだが、ヘイルの談によれば、各歯は、慎重に選択されたストックから個別に成形されるため、ホイール全体で粒子の方向が同じになり、ホイールは温度と湿度の変化に応じてすべての方向に均一に呼吸するという。まさに、熟練の職人技術が生み出した一品といえる。

■熟成チェリー材(サイズ:92×153cm)。3万5000ドル〜特注(約364万円)

》クロックライト公式サイト
https://www.clockwright.com


【ERIC FREITAS(エリック・フレイタス)】

 エリック・フレイタスはアメリカ・ミシガン州チェルシー出身で、デザイン、絵画、彫刻の経歴をもつ時計師でありアーティスト。衰退している時計製造の技術に興味をもったフレイタスは製造技術を勉強し、2004年から時計を作り始めている。

 錆びて朽ちたスチールを複雑にカットし市販の時計モーターを使用した初のコレクションを作製し、その後、イギリスの時計製造の本を参考にし、完全機械式重量駆動時計の開発。月日を重ね、時計師としての技術を習得したことで、その芸術的表現とともに、時計としての完成度もさらに高められており、フレイタス自身も“私が製作する機械式時計はどれも特別なもので、各作品に独自のビジョンと異なる個性をもたせるようにしている。 時計としての機能だけではなく興味をそそる機械芸術作品にしたいと思っており、生涯に作れるデザインは限られるだろう”と、自分の技術へのこだわりを述べている。残念ながら、彼の時計はアメリカ国内のみでの販売となっているようだ。

TH3

 エリック・フレイタスが2019年に完成させた横型のクロック。鉄が朽ちてネジ切れたかのような独特の造形をもつ彫刻的な表現に加え、その横型のフォルムが目を引きつける。この時計の魅力については、公式サイトに掲載されたフレイタスのコメントが実に面白い。“私は横型時計に親しみをもっています。 それは、私が規範から逸脱するのが好きだからという理由だけではありません。 横長のデザインのほうが見た目も美しいからではありません。うまく行けば、どちらの向きも美しく見えます。 その理由は機械です。 歯車、重さ、振り子が所定の位置に収まる方法については、非常にシンプルで直接的、そして完璧なものがあります。 水平ギアレイアウトでは、重なり合うものや、雑然としたブリッジや余分なプレートを必要とするものはありません。 これにより、すべてのコンポーネントを妨げられずに表示できます。 清潔で完璧”。

■鉄製(24×10×6cm、重りは除く)。1万8000ドル〜特注(約187万2000円)

》エリック・フレイタス公式サイト
https://www.ericfreitas.com

 今回紹介した3人に共通していることは独創的な時計を創ることへの情熱と、先代の時計職人への尊敬の念をもっていることだろう。時計に対するアプローチと芸術的な造形に違いはあるが、どれもほかにはない魅力を備えているのは間違いない。設置する場所に苦労しそうだが、興味のある人はそれぞれのホームページを覗いてみてはどうだろうか。


文◎William Hunnicutt
時計ブランド、アクセサリーブランドの輸入代理店を務めるスフィアブランディング代表。インポーターとして独自のセレクトで、ハマる人にはハマるプロダクトを日本に展開するほか、音楽をテーマにしたアパレルブランド、STEREO8のプロデューサーも務める。家ではネコのゴハン担当でもある。

https://www.instagram.com/spherebranding/

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