時計好きの間ではすでにおなじみのジャンルとなっているが、ここ数年、時計の世界では高級時計からカジュアルまで、価格帯を問わずに数を増やしているのが過去に製作されていたモデルをモチーフにした“復刻モデル”。スタンダードな3針モデルからクロノグラフまで様々なモデルがリリースされているが、そのなかでも突出してラインナップが多く、魅力的なモデルが展開されているのがダイバーズウオッチだ。
復刻モデルは1950年代から60年代に製造されていたモデルをモチーフにすることが多いのだが、50年代はダイバーズウオッチの黎明期、60年代はダイビングの普及に合わせて一般ユーザー向けに多様なモデルが発売された発展期であり、ダイバーズウオッチの歴史のなかでも特に開発が活発化した時代に当たる。時計ブランドがダイバーズウオッチ市場の拡大を狙って機能、デザインともに果敢なチャレンジを行った結果、独創的で魅力的なモデルが数多く輩出されているのだ。
今回の実機レビューで取り上げたのも、そうしたモデルのひとつ。スイスの時計ブランド、ニバダ・グレンヒェンが1965年に発売した“デプスマスター”の復刻モデルだ。当時の時計としては破格のスペックである100気圧(1000m)防水を備えた異色のダイバーズウオッチをモチーフに、スペックはもちろん小振りなクッションケース、アイコニックな文字盤デザインと、オリジナルモデルを忠実に再現している。
【今回の実機レビューモデル】
ニバダ・グレンヒェン(NIVADA GRENCHEN)
デプスマスター・パックマン
素材:ステンレススチールケース&ブレス
サイズ:39mmサイズ、ラグトゥーラグ:47mm、ラグ幅20mm、厚さ13mm
機械:自動巻きSW200日付なし(ゴースト位置なし)、38時間パワーリザーブ
防水:100気圧(1000m防水) オリジナルは3300フィート(約1005m防水)
価格:15万4000円
【デプスマスター・パックマン:実機レビュー動画もチェック】
タイムギア公式Youtubeチャンネルでは、デプスマスター・パックマンの実機レビュー動画を公開中。さらに細かくディテールや着用感を解説しているので、ぜひチェックしてみて欲しい。
【ニバダ・グレンヒェン(NIVADA GRENCHEN)のブランド紹介】
ニバダ・グレンヒェンは、1879年に設立された時計ブランド。自動巻きの黎明期である1930年代前半にはすでに自動巻き時計を製造。50年に発表した防水自動巻き時計“アンタークティック”は、55年から56年にかけてアメリカ海軍の南極探検に採用され、ニバダ・グレンヒェンは実用性に優れた時計ブランドとして、その名を知られるようになる。
1980年代に事業解体を余儀なくされたが、時計ブランド“ウィリアム エル 1985”を立ち上げた、ギョーム・ライデと時計メーカーであるモントリシャール・グループのオーナー、レミ・シャブラにより2019年に復活。今季から日本での発売も開始されることが決定し、時計好きから注目を集めている。
【外装について】
曲面に仕立てたケースサイドに鏡面仕上げを採用することで特徴的なクッションケースのフォルムを際立たせているが、逆回転防止ベゼル、ケースのフロント、ラグ(ラグは再度もヘアライン仕上げ)など、ケースは汚れや小傷が目立ちにくいヘアライン仕上げで統一。良い意味で無骨な雰囲気を醸す重厚な質感が魅力的だ。
15分刻みのスケールを備えた逆回転防止ベゼルは120クリックを採用。一般的な60クリックに比べて精密な感触が楽しめるのに加え、回転ベゼルの表示精度が高いのもこだわりのポイントと言えるだろう。
現行のダイバーズウオッチで広く採用されているリューズガードを採用していないのもこだわりのポイント。耐久性や強度を考慮するならばリューズガードを設けたほうが信頼性は高まるのだが、モチーフとなった60年代のデプスマスターに合わせてリューズガードを採用せず、当時の雰囲気やデザインを忠実に再現している。
写真では確認できないが、リューズと逆側のケースサイドには飽和潜水に対応するヘリウムガスエスケープバルブを装備。これは60年代のオリジナルモデルにはなかった仕様だが、1000m防水のスペックに合わせて機能が追加されたようだ。
【文字盤のデザインについて】
アンティークウオッチの世界で“パックマン”の通称で知られる60年代オリジナルモデルから継承した変形アラビアインデックスが、マットな黒文字盤で強烈な存在感を主張。元々はアール・デコの影響を受けたデザインなのだが、見れば見るほどパックマンに見えてくるから面白い。
ただし、このモデルの見所はインデックスだけに止まらない。ベンツマークのないロリポップ針、ブロードアロー針に加えて、一般的な腕時計と比べて、極端に大きい秒針が採用されている。パックマンインデックス”と時分秒針には、経年変化した夜光を思わせるベージュのスーパールミノバが塗布されており、アンティーク感を高めながら視認性もしっかりと確保されている。
【ムーヴメントと裏ブタについて】
裏ブタは機密性を考慮したスクリューバック仕様。分厚く堅牢な裏ブタで隠されているため搭載するムーヴメントを見ることはできないが、機械はセリタのCal.SW200を搭載(公式サイトによるとデイト表示のない仕様のムーヴメントを採用)。振動数は毎時2万8800振動。最大38時間パワーリザーブを備える。
【装着感とブレスレットについて】
ケースサイズは39mm、ラグからラグまでの上下幅は47mm、厚さ13mm。100気圧(1000m防水相当)のスペックを確保するため厚みのあるフォルムに仕上げられているが、ラグの先端までが手首に内側に納まる小振りなケースに加えて、ミドルケースからラグの先端に向けてわずかにカーブしたフォルムに仕上げ、薄型のブレスレットを組み合わせることで装着感が高められている。
ブレスレットはヘアライン仕上げのコマで、鏡面仕上げされたライスブレスを挟み込んだ仕様。ミドルケースからラグの先端へと連なるフォルムとリンクした造形、仕上げが採用されている。簡易的なピン式ではなく、強度に優れたネジ式でコマを連結しているのも好印象なポイントだ。
バックルはシンプルなシングルロック仕様。ブレスレットとは逆に両サイドに鏡面仕上げ、中央にヘアライン仕上げを施した簡潔なデザインだが、適度な厚みを備えた堅牢な作りを採用し、しっかりと強度が確保されている。
【総評】
唯一無二と言えるパックマンインデックス”、ロリポップ針、異様に太い秒針など、個性あふれるディテールを備えた文字盤、コンパクトで着けやすい39mmのクッションケース、100気圧防水(1000m相当)のスペックと、語りどころ満載の個性派モデル。しかも、これだけのユニークな仕様が、いずれも1963年に製造されていたヘリテージモデルを再現したデザイン、機能であるというのが魅力的だ。
無骨な質感を備えた外装はやや仕上げの粗さも見られるが、手の届く価格と無骨な実用時計の復刻版という出自を考慮すると、それもまた魅力に思えてくる。ユニークなデザインのため好みの分かれるモデルであるのは間違いないが、デザイン、機能、ヒストリーと、時計好きの琴線に触れる魅力を備えたモデルと言えるだろう。
【問い合わせ先】
エイチエムエスウォッチストア表参道
TEL:03-6438-9321
www.hms-watchstore.com/
文◎船平卓馬(編集部)