今回テーマとするのはゴールドウオッチ。なかでも、なぜ時計素材の最上位に位置するのかということである。
「そんなことは聞かなくてもわかる。高い資産価値をもつ金を素材に使用しているからだ」と、言う方もいるだろう。確かにその通り。ゴールドウオッチが最上位に位置付けられているのは高い資産価値をもっているからにほかならない。
というのも、歴史好きの方ならご存じだろうが、ヨーロッパではいつの時代も周囲の国々との争いが絶えなかった(ヨーロッパに限ったことではないが…)。そのため、戦争や革命などで経済の仕組みが劇的に変わり、国家崩壊で自国の通貨がいとも簡単に無価値となること少なくなかったのである。
その教訓を生かし、ヨーロッパの人々は資産を通貨ではなく、金でもつことが古くから根付いていた。世界中どこでも通用し永久的な価値をもつゴールドを、身に着けて持ち運ぶことができる時計の外装に使用するようになったことはごく自然の流れだったのだ。
資産的な価値とは別に、ゴールドウオッチが最上とされるのは、素材がもつ特徴に由来する実用的側面も大きく関係している。
ゴールド素材が持つ特徴。そのひとつが非常に酸化しにくく、年月を経てもほとんど錆びないという点だ。
実は時計修理の人間が最も厄介であると言うのが“錆”である。錆が発生すると、例えばケースであれば、錆が発生した部分はやせてしまい防水性が保てなくなる。ケースで済めばまだマシだ。ムーヴメントに錆が発生すると、それこそ部品の大部分の入れ替えでもしないかぎり、見た目も機能も完全に元通りになることはない。ほぼ錆びないゴールドは耐久性という点でも時計素材として適した素材といえるのだ。
またゴールドは金属としては柔らかいものの、例えばケースに深いキズが付いてしまったりしても、新たに継ぎ足し溶接することで修復できる。ステンレススチールなどに比べると簡単にキズが付いてしまうし、いまではそもそも非常に硬くキズが付きにくい時計の素材もある。ただ、そうしたキズが付きにくい素材というのはいったんキズが付いてしまうと修復が難しいという面もある。
大きくキズが付いてしまったゴールドパーツは、右のように新たにゴールドを継ぎ、成形することで修復可能。アンティークウオッチのような古い時計でも長く使うことができる
一般に錆びないと言われているステンレススチールだが、錆びにくいだけで実は扱い次第では錆びてしまう。しかも硬い金属のため、一度キズや錆が発生してしまうと、その修復は容易ではない。チタンやそのほか先進素材も、キズに強く安定性が高く、希少性をもつとしても、長い目で見たときに修復できるのかという問題が残る
高い資産価値を備え、錆にも強く、キズが付いても修復可能なゴールドウオッチ。これほどまでに合理的な素材はそうあるものではない。だからこそ、現代でも最上位の時計素材として評価されているわけだ。
文◎堀内大輔(編集部)