アンティーク時計 ロレックス @kikuchiのいまどきの時計考

【第12回】ポストヴィンテージ時代の腕時計|ロレックスといえど無視できなかった70年代のトレンド!?

エクスプローラー II のファーストモデル、Ref.1655。SS(40㎜径)。自動巻き(Cal.1575)。製造期間は1971〜87年頃

 1970~90年代に製造された腕時計をポストヴィンテージとしてフィーチャーしている当連載。12回目の今回は70年代のロレックスを取り上げてみたい。

 当連載の第4回では「宇宙時代の到来で1970年代に流行した異形ケース!」と題して、当時NASAが月面着陸に成功するなど、世の中の目が宇宙に向いていたことから、卵型やクッション型といった異形ケースとともに宇宙を意識させるようなデザインや色など、個性的なものが流行ったと紹介した。

 そして、そんな70年代にはロレックスにも新たなコレクションが登場している。エクスプローラー II だ。エクスプローラー I の進化形として、その I から遅れること18年。71年にリリースされた。

 そもそもなぜこのタイミングで投入されたのか。一説には、エクスプローラー I の人気に陰りが出てきたためと言われている。これが正しいかはわからないが、探検家向けの時計として誕生した I のコンセプトをそのまま受け継ぎつつも、新たに24時間表示という機能を追加し、進化版として作られたことは確かだ。

 そして、興味深いのがこのデザインである。やはり当時の世相を反映したと素直に思ってしまうほど、大振りのインデックスやオレンジのド派手ともいえる24時間針など、デザイン的にはかなり主張の強いものが採用されている。

 ロレックスといえば実用時計をコンセプトに掲げているだけあって、それ以前に誕生した歴代モデルのデザインをふり返ってみても、どれもいたってシンプルだ。しかし、70年代に登場したこのⅡだけが突出してアクの強いデザインなのである。

 第4回でも解説したが、実はスイス時計産業の70年代はまさに斜陽の時代。工業化の立ち遅れや日本製クォーツ時計の台頭など様々な問題を抱えていた。そのため当時は装身具としてのデザイン性にスイスの時計メーカーは活路を見出そうとしていた。そのためにトレンドを意識した作りが優先していたようなのだ。天下のロレックスといえどもこの流れだけは無視できなかったのかもしれない。

デザイン的な効果でさりげなく視認性を高める演出も!

時・分針、24時間針とこの三つの針の付け根部分は文字盤と同色の黒で塗られている。ここが文字盤の黒に溶け込んでそれぞれがより強調されて見える効果を狙ったものだ

 エクスプローラー II の初代モデルは、時分針の形状こそスタンダードだが、インデックス、オレンジの24時間針などは大振りで、しかも24時間表示のベゼルにはGMTマスターとは違うソリッド感のある仕上げが採用されるなど、かなり個性的。

 しかもそこには以前のロレックスではあまり考えられないような、ちょっとしたデザイン的な仕掛けが施されている。それは時・分針、24時間針とこの三つの針の付け根部分を文字盤と同色の黒で塗られている点だ。ファントム効果と言われているようなのだが、針の付け根部分が文字盤の黒に溶け込んで見えるため、それぞれが独立してより強調されて見える効果を狙ったもので、視認性を高めようとしたことがうかがえる。このようなちょっとした演出も、まさに70年代当時ならではのデザイン的傾向を踏まえたものと言えるのかもしれない。

 ちなみにエクスプローラー II のファーストモデルは2000年代前半までは、このある意味ロレックスらしからぬデザインが仇となりほとんど人気がなく70万円ぐらいだったが、2005年ごろからデザインが見直されて海外オークションで火がつき、いまでは250万円以上という、かなり遠い存在となってしまった。

菊地 吉正 - KIKUCHI Yoshimasa

時計専門誌「パワーウオッチ」を筆頭に「ロービート」、「タイムギア」などの時計雑誌を次々に生み出す。現在、発行人兼総編集長として刊行数は年間20冊以上にのぼる。また、近年では、業界初の時計専門のクラウドファンディングサイト「WATCH Makers」を開設。さらには、アンティークウオッチのテイストを再現した自身の時計ブランド「OUTLINE(アウトライン)」のクリエイティブディレクターとしてオリジナル時計の企画・監修も手がける。

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