アンティーク時計 @kikuchiのいまどきの時計考

【第1回】「ポストヴィンテージ」ってご存じですか? 今後ぜひ注目しておきたい時計選びのキーワード!

 唐突だが〝ポストヴィンテージ〟という言葉を聞いたことがあるだろうか。おそらくは、ご存じない方のほうが多いのではないか。

 それもそのはず、弊社が奇数月30日に刊行している高級腕時計の専門誌〝POWER Watch(パワーウオッチ)〟の連載企画から生まれた言葉のため、たぶん小誌を読んでくれている人以外はほとんど知られていないかもしれない。

 ではどういう意味なのか説明しよう。

 高級時計の専門誌はいくつかの出版社から刊行されているが、弊社が刊行するパワーウオッチは、自分で言うのもなんだが、それらとは路線がちょっと違うのである。何が違うのかというと、現行品の情報だけでなく、USED(中古)やアンティーク時計の情報にも現行品と同じぐらいに力を入れて紹介している業界唯一の時計専門誌だからだ。

 特に日本のマーケットの場合は、現行、USED、アンティークとこの三つの市場が海外に比べてしっかりと確立されている。しかしながら、アンティーク時計については世界的なもののため、その価値ぐらいは時計を知らない人でも、なんとなく認知されているが、もうひとつのUSED市場に至っては日本が先行している独自のマーケットということもあるだろう、かなり曖昧なのである。

 ちなみに、アンティーク時計とは、1960年代よりも以前に生産されたものと業界的には明確に定義されている。この理由についてはまた別の機会に触れさせていただくが、USEDについては「中古」という言葉で一括りされてしまい、単なる使い古しのような意味合いにすらとられかねない。

ポストヴィンテージ時代の時計は、そのほとんどがサイズ40mmアンダーで着けやすい。写真右からブレゲ クラシックパワーリザーブ(1990年代)、オーデマ ピゲ ロイヤルオーク・キュイール(1993年)、IWC ダ・ビンチ パーペチュアルカレンダー(1980年代)、ジラール・ペルゴ ゲラーリクロノグラフ(1990年代)、パテック フィリップ カラトラバ(1986年)、ブランパン 2000シリーズ、ニュークラシック(1990年代)

 実はUSEDと言っても、その言葉のとおり一度は人の手に渡ったものに違いはないが、その中には現行品もあれば、すでに生産終了している過去の傑作モデルも含まれる。つまり、アンティーク時計の部類に含まれない1970年代以降の個体は、たとえ40年以上も前の個体であっても現在の括りからすると、すべてUSEDという表現になってしまうのである。

 すでにお気付きの方も多いと思うが、高級時計業界においてこの1〜2年、1950〜60年代に続いて1970年代の時計にも注目が集まり、各社から復刻モデルが相次いで登場している。アンティークの部類には入らないものの、それだけこの年代でも、その時代を反映した傑作モデルが数多く生み出されているということの表れと言えるだろう。

 そこで、我々編集部ではアンティークには入らないが、その次の世代の価値ある時計として、1970〜1990年代の30年間に生産されたものを〝ポストヴィンテージ〟として新たな定義を勝手に設け、単なるUSEDとは区別して2011年から注目してきたというわけだ。

 このポストヴィンテージという言葉もそうだが、この時代の時計そのものもほとんどの時計専門誌やネットも取り上げることが少ないため、いまだにその存在自体すらあまり注目されていない。そのため掘り起こせば魅力的なモデルがたくさん眠っており、まさに宝庫だ。しかも、デザインやサイズなどいまとは違う味わいが楽しめ、さらにアンティーク時計ほど実勢価格も高騰しておらず、おまけに取り扱いもアンティークほど神経を使わなくてもすむなど、魅力的な要素はけっこう多いのである。

 そこで、次回から数回にわたってこのポストヴィンテージ時代に、いったいどんな魅力的な時計があったのかを紹介していきたいと思う。なお、このポストヴィンテージ時代の時計に焦点をあてた雑誌「1970〜00傑作腕時計図鑑」(1320円)をパワーウオッチの別冊として2016年に弊社から刊行している。歴史的な背景から歴代傑作モデルまでを詳しく紹介しているので、ぜひそちらもチェックしてもらいたい。

2016年8月にパワーウオッチの別冊MOOKとして敢行した、ポストヴィンテージ時代の時計に焦点をあてた雑誌「1970〜00傑作腕時計図鑑」。表紙の時計は1977年にヴァシュロン・コンスタンタンの創業222周年を記念して限定生産された傑作222コレクションのスクエアモデルである

菊地 吉正 - KIKUCHI Yoshimasa

時計専門誌「パワーウオッチ」を筆頭に「ロービート」、「タイムギア」などの時計雑誌を次々に生み出す。現在、発行人兼総編集長として刊行数は年間20冊以上にのぼる。また、近年では、業界初の時計専門のクラウドファンディングサイト「WATCH Makers」を開設。さらには、アンティークウオッチのテイストを再現した自身の時計ブランド「OUTLINE(アウトライン)」のクリエイティブディレクターとしてオリジナル時計の企画・監修も手がける。

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