編集部がジャンル別で人気モデルを実機レビューする新連載企画。今回注目したのは“ミリタリークロノグラフ”だ。数ある機械式時計のジャンルのなかでも特に高い人気を博しているクロノグラフ。スタンダードな3針やダイバーズウオッチに比べて構造が複雑なこともあり、高額なモデルが多くなるが、そのメカニカルなデザインはほかのジャンルにはない魅力を感じさせる。
複雑なデザインと構造であるため近年は100万円を超えるようなモデルも数を増やしているが、今回は80万円台までの価格帯、いわゆるミドルレンジのカテゴリーで、二つのモデルを選出してみた。
実際に戦闘機に搭載されたコクピットクロックを腕時計のサイズに落とし込んだジンの“717”と、アイコニックなトリガー式プッシュボタンが目を引くグラハムの“クロノファイター ヴィンテージ ブラウン”。いずれもそれぞれのブランドのこだわりが光る力作なので、ぜひチェックしてみて欲しい。
【実機レビューモデル-其の1】
SINN(ジン)
717
1970年代後半にドイツ空軍のトルネード計画のために設計された、センター配置のミニッツカウンターを備えたコクピットクロックをベースにした新作コレクション。視認性の高い意匠に加え、ブラック・ハード・コーティング仕上げで耐傷性を高めたケース、文字盤内の曇りを防止するArドライテクノロジーなど、独自技術により機能的信頼性が高めているのが特徴となっている。
■Ref.717。SS(PV加工+テギメント加工/45mm径)。20気圧防水。自動巻き(Cal. Sinn SZ01)。88万円
【問い合わせ先】
ホッタ
TEL:03-5148-2174
公式サイト
https://sinn-japan.jp
》編集部・船平の総評
1970年代後半にドイツ空軍のトルネード計画のために設計され、現在も軍の多機能戦闘機トルネードに採用されている“Nabo 17 ZM”と呼ばれるコクピットクロックをモチーフにした新作。
“Nabo 17 ZM”は、センター配置のミニッツカウンターと、視認性の高いオレンジの針が特徴となっており、このモデルでもセンター配置のオレンジ色の大きな針でクロノグラフの秒と分を表示。針の造形はもちろん、文字盤もマットな黒地にスーパールミノバ夜光で太めのメモリとインデックス、外周にインナーベゼルを配置したコクピットクロックと同様の仕様となっており、暗闇や悪条件下でも優れた視認性を発揮してくれる。
“Nabo 17 ZM”はセンターケース下部にスタートとリセットを行うノブを備えているのも特徴だが、細かい刻みを加えたリューズによって、このノブの意匠まで再現されているのが素晴らしい。
45㎜と大きめのサイズである点は評価の分かれるところだが、モチーフがコクピットクロックであることを考慮すると、この大振りなケースもマニア心をくすぐるポイントとなってくる。ひねりの利いたモデルを探している人は、選択肢に加えてみてはいかがだろうか。
》“717”の注目ポイントはコチラ!
モチーフとなったコクピットクロックの意匠を忠実に再現した針、文字盤がマニア心をくすぐる。外周の目盛りまでしっかりとリーチさせている点にもこだわりが光る。
テギメント加工をベースにしたブラック・ハード・コーティングを施し耐傷性を強化。Arドライテクノロジーにより精度の安定と風防の曇り防止機能を備えているのもポイントだ。
サイズ45mm、厚さが15.3 mm。クロノグラフのなかでも大きめのサイズ感だが、ラグを短めにデザインしたことで見た目よりも快適な装着感に仕上げられている。
》編集部・堀内の総評
「戦闘機のコクピットクロックをモチーフに、デザインバランスを整えて腕時計のサイズに仕上げた点に、ジンの優れた手腕を実感できます。外周にインナーベゼルを備えているため実寸よりも大きく感じられる点と80万円台後半の価格は評価の分かれるところですが、デザインの再現度の高さ、独自技術により堅牢な作りなど、ほかのブランドにない魅力を備えたモデルなのは確かだと思います」(編集部:堀内)
【実機レビューモデル-其の2】
GRAHAM(グラハム)
クロノファイター ヴィンテージ ブラウン
代表作であるクロノファイター の発売15周年を記念して2016年に発売されたフラッグシップコレクション。巨大なトリガー型プッシュボタン(第2次世界大戦中に分厚いミトングローブを着けた爆撃機パイロットのために開発された機構が原点)に加え、オールドラジウムカラーの夜光インデックス、先端を尖らせた夜光塗布のソード針など、アンティークウオッチを思わせるディテールが魅力的だ。
■Ref. 2CVAS.B01A。SS(44mm径)。10気圧防水。自動巻き(Cal.G1747)。74万2500円
【問い合わせ先】
サイプレストレーディング
TEL:06-6459-4140
公式サイト
https://graham-watches.jp
》編集部・船平の総評
グラハムを象徴するモデルであるクロノファイターの誕生15周年を記念して2016年に発売されたモデル。生産終了後も根強い人気を誇っていたクロノファイター RAC フォートレスのデザインを継承した意匠が特徴となっており、第2次世界大戦でイギリス軍が使用した高速爆撃機B]17を着想源としたアンティークテイストの意匠が特徴であった。
このモデルはベースモデルからベージュの夜光インデックス、30分積算計とスモールセコンドを備えたツーカウンタークロノグラフの機構を継承しつつ、小振りなスモールセコンド、大きめの30分積算計をアシンメトリーに配置した意匠を採用。デイデイト機構については便利な反面で調整の手間があるため好みの分かれるところだが、アンティーク感を高めた意匠は魅力的だ。まるで懐中時計を腕に載せているかのような、ほかにはない雰囲気を楽しめる。
また最大の特徴であるトリガー式の巨大なプッシュボタンについても、見た目のインパクトはもちろん、独特の操作感を楽しめる点はやはり大きな魅力と言えるだろう。左側に配置されているため、装着時に手の甲に当たる心配もなく、見た目とは裏腹に装着感もなかなか良い。
》 “クロノファイター ヴィンテージ ブラウン”の注目ポイントはコチラ!
クロノファイター最大の特徴であるトリガー式プッシュボタン。見た目に注目しがちだが、装着時に親指で操作しやすい点も大きな魅力。美観と機能性を両立した点を評価したい。
重厚な作りを備えた両開きのホールディングバックル。研磨の質感もよく、美観にも優れるが、つく棒を入れ替えするのが少し難しいのが留意点だ。
44mmと大きめだが、手首に沿わせるようにラグをカーブさせているため装着感は良好だ。気になるのはトリガー型プッシュボタンだが、ケースの左側に設置されているため手の甲に当たることもなく快適に着けられる。
》編集部・堀内の総評
「トリガー式プッシュボタン を備えた独創的なデザインにばかり注目が集まりがちですが、今回実機を見て感じたのが、逆テーパーをかけたベゼル、懐中時計を彷彿とさせる曲線を備えたミドルケース、重厚で優美なラグなど、ディテールの作りの良さでした。同価格帯のモデルと比較しても、外装の質感は群を抜いて良好だと思います」(編集長:堀内)
文◎船平卓馬(編集部)