前回のエアキングに続いて今回は、たぶん来年モデルチェンジされるのではないかと思われるもうひとつの候補、ミルガウスについて取り上げる。
ミルガウスといえば耐磁性に優れる時計として開発され、名前もフランス語で1000を表す“ミル”と磁束密度の単位“ガウス”を組み合わせた造語であることは有名だ。つまり1000ガウス[8万A/m(アンペア毎メートル)]の磁場に耐えうる性能を有した耐磁時計である。
ミルガウスのRef.116400GV。2007年に約20年ぶりに復活した。ほかに2014年に登場したZブルー文字盤タイプがラインナップする
そこでまず時計と磁気の関係について簡単に触れておきたい。機械式の腕時計の場合は、中の機械(ムーヴメント)が一旦磁気を帯びてしまうと、途端に遅れや進みといった精度に狂いを生じさせてしまう。自然には直らないため時計修理店に持ち込んで脱磁処理をしてもらう必要があり、結構面倒なことになるのだ。
そのため特にバッグなどに付く磁石や、スマートフォン、タブレットのスピーカー部には5cm以内に近づけないように気を付ける必要がある。ちなみにアナログクォーツ式もステップモーターが磁気の影響を受けるが、デジタルクォーツ式はモーター等がないため磁気の影響を受けない。
ではミルガウスの場合はどのようにして磁気を防ぐのか。それはケース内に2種類の強磁性合金を組み合わせて作られたインナーケース(磁気シールド)によってムーヴメントをすっぽりと包んでいる。これによって内部のムーヴメントに影響を及ぼさないようになっているわけだ。そのためサブマリーナーなどのほかのスポーツモデルに比べてミルガウスは時計自体の厚みが増している。
磁束密度を表す記号“B”とともに矢印が刻印されたこの磁気シールドによってムーヴメントが覆われている。実はこの写真はミルガウスではなくエアキング。つまりエアキングも同等の性能を有しているのだ(写真提供:ロレックス専門店「クォーク」)
ミルガウスの耐磁性能がどれほどのものなのかというと、日本工業規格では、第2種耐磁時計を1万6000A/mと定め、磁気に1cmまで近づけても性能を維持できるレベルとしている。つまり、ミルガウスの数値はその5倍。数値的にはかなりのハイスペックということがわかる。
そしてここからが本題、ミルガウスとエアキングの関係についてだが、実は先に掲載した磁気シールドの写真は、ミルガウスではなくエアキングのもので、ムーヴメントも同じCal.3131を搭載する。
つまりエアキングも優れた耐磁時計だと言えるのだ。ところが不思議なことに公式ウェブサイトにはエアキングの耐磁性については、スペック情報のなかにある「ムーヴメントを保護する耐磁シールド」という記述だけでほかにはない。コンセプトがパイロットウオッチだけに、それをもっと前面に打ち出してもいいはずなのに、耐磁時計としてのミルガウスの存在が薄れるからなのかはわからないが謎なのである。
また、耐磁時計といえば、オメガのシーマスター アクアテラも、近年1万5000ガウスというミルガウスの15倍もの驚異的な耐磁能力を実現している。そのためいまやミルガウスにとって耐磁性能でも大幅に遅れをとっている状況なのだ。
そこで気になるのがミルガウスの今後の行く末である。かつて防水能力で他社に追い越されてしまっていたロレックスが3900m防水を実現したディープシーを開発し復権したように、ミルガウスも新型ムーヴメントへの移行に伴って、他社以上の耐磁能力を備えて新生ミルガウスとして登場するのか、それともムーヴメントだけの移行で終わるのか、はたまた耐磁時計としてのポジションをエアキングに譲ってディスコンとなってしまうのか。ちょっと気が早いが、ミルガウスについてはそんなことをふと思ってしまうのだった。はたしていかに。
そんなミルガウスだが、ロレックスの新作発表に伴う実勢価格の高騰で15万円ほど上昇したが、エアキングは新作公開後に大幅に下落したものの、ミルガウスだけはそのまま上昇を続け、いまや120万円台という最高値となっている。詳しくは週間ロレックス相場をチェックしてほしい。