A.飽和潜水時に時計内部に入ったヘリウムガスを排出するため
防水時計とダイバーズウオッチの違い、そして潜水用ダイバーズウオッチに必ず必要なものについては、同企画にてすでにお届けした。今回はそんな潜水用ダイバーズのなかでも、“飽和潜水用ダイバーズ”に必ずといっていいほど装備されている不思議な“バルブ”について説明しよう。
そのバルブとは、メーカーによって呼称が異なるが一般的には“ヘリウムガスエスケープバルブ”と呼ばれる。ではなぜそもそもバルブを設けているのか。それは飽和潜水に対応するために必要となる機構だからだ。
以前にも取り上げたが、ダイバーズウオッチは大きく2種類に区別される。ひとつは酸素ボンベなどの圧縮空気の呼吸気体を入れて、浅海などで潜水するスクーバダイビングなどに使用できる“空気潜水用”。もうひとつはヘリウムガスと酸素の混合ガスの呼吸気体を利用し、深海探査などで潜水できる“飽和潜水用”だ。
前述したように、後者の飽和潜水は、ヘリウムガスと酸素が混合された呼吸気体を利用するのだが、実は混合ガスで用いるヘリウムは分子が小さいため、時計内部に入り込んでしまう。
その状態のまま浮上してしまうと、減圧のペースにヘリウムの排出スピードが間に合わないためガスがケースから抜けきれず、時計内部の気圧が外部よりも大きくなってしまい、最悪の場合時計の風防が破裂してしまう。
ヘリウムガスエスケープバルブを最初に発明したのはロレックス。この機構を備えたダイバーズウオッチとして“シードゥエラー”が1967年に発表され、当時としては驚異の610m防水を実現
こうした事故を防ぐために考案されたのがヘリウムガスエスケープバルブである。これは時計内部の圧力が一定のレベルに達するとバルブが自動的に作動し、防水性を損なうことなくケースからヘリウムを排出するという仕組みだ。
実際に、潜水作業を専門とするフランスの潜水調査会社“コメックス社”のダイバーが作業時に、装備していたロレックスのサブマリーナーの風防が破裂する事故が起きた。この報告を受けたロレックスはヘリウムガスエスケープバルブを開発し、サブマリーナー(Ref.5514)に装備され、後にシードゥエラーに受け継がれたという歴史がある。
文◎松本由紀(編集部)
【意外と知らない時計知識】
■Q1.腕時計の防水性能表示「m(メートル)」と「BAR(バール)はそもそも何が違う?【ダイバーズ編】
■Q2.ローマ数字インデックスにおいて、4はなぜ“IV”ではなく“IIII”とするのか
■Q3.時計の時表示はなぜ“0(ゼロ)”ではなく“12”なのか
■Q4.“m”表示の防水性能以外で、潜水用ダイバーズウオッチに必ず必要なものとは?【ダイバーズ編】
■Q5.日常生活において磁気の影響を受けてしまうのはどんなとき?