》独特のデザインセンスと、手頃でありつつ高品質な作りが大きな魅力
2014年に人口が1億人を突破して以降、人口増や堅調な消費を支えに高成長が続くフィリピン 。近年はアパレル、アクセサリーブランドの分野の済成長が著しく、地元のみならず、グローバルに活躍するブランドが数をふやして存在感を増している。
実は、世界経済フォーラム(WEF)が毎年発表している世界153カ国・地域の男女格差の度合いをランキングした調査報告書でも第16位(2020年度、ASEAN10カ国でトップ)を獲得するなど、経済、カルチャーの両面で、注目が高まっている国なのだ。
経済の発展に伴ってマーケットが拡大していくのが嗜好品である。まだ、日本ではその動向がほとんど知られていないと思われるが、今回はフィリピンの時計界に焦点を当てて、独特の存在感を放つ二つの時計ブランドを紹介する。
いずれも日本には未上陸のブランドだが、日本の時計ブランドとも、香港系のブランドとも異なる独特のデザインが実に魅力的だ。今後、日本進出の可能性に期待しつつ、ぜひチェックしておきたい。
【MAKINA WATCHES(マキナウォッチ )】
幼い頃から時計に興味を持ち、10代の頃には時計のコレクションを始めたという時計愛好家ダニーロ・ヴィラヌエバが立ち上げた新鋭ブランド。企業で広告の仕事をして働きながらも、自分の時計ブランドを作りたいという思いを強めていったダニーロ・ヴィラヌエバは、広告の仕事を辞めて時計ブランドの創設を決意する。
休職中に時計ブランドの概要を練り、必要な資金を捻出するために、自身が所有していたパネライ、ジャガー・ルクルトなどの時計コレクションを売却して、2016年、マキナウォッチを創設。ヴィラヌエバの妻が共同創業者となっておりオペレーションマネージャーを兼務。さらに、ヴィラヌエバの両親が輸出入担当で、ファミリービジネスとしてスタートしている。
ヴィラヌエバは、頭の中で時計をデザインし、紙に書き出すことから時計ブランドをスタートさせた。 香港に本社を置く、スイスの時計会社で働く時計技師の友人に協力を仰ぎ、香港に小さな時計製造工場を持っていた別の友人に生産依頼。2017年に代表作である“ウリエル”と“メフィスト”の2つのコレクションを発表することとなる。
マキナウォッチは香港で時計を製造しているが、フィリピン人のエンジニアと時計師も雇っており、デザイン、設計、組立てはフィリピンで行われている。ヴィラヌエバは、“ブランドを支える頭脳は全てフィリピン人”と語っているのだが、新世代のフィリピンウオッチを牽引するマキナウォッチの熱意と誇りが感じられる言葉と言えるだろう。
ウリエル1
マキナウォッチ創設の翌年である2017年から発売が開始された旗艦コレクションのひとつ。どこかレトロな雰囲気を感じさせる40mmのクッションケースを採用したデザインが特徴。手作業で研磨したというエッジを立たせたアップライトのインデックス、針を配した文字盤と、曲線を描くケースのコンビネーションが美しいコントラストを生み出している。
■SS(40mmサイズ) 。50m防水。自動巻き(MIYOTA 821A) 。599米ドル(約6万2000円)
メフィスト
風車を思わせるサンバースト仕上げの3D構造文字盤を採用したメフィストコレクション。文字盤はレイヤード構造になっており、凹の部分はアップライト仕様、凸の部分はインデックスをくり抜いて下地の夜光を露出させるユニークなデザインに仕上げられている。
■SS(42mm 径)。5気圧防水。自動巻き(MIYOTA 8215 )。599米ドル(約6万2000円)
》マキナ ウォッチ公式サイト
https://www.makinawatches.com
【KLO &CO.(ケー・エル・オー ウォッチカンパニー )】
ケン・オング、ブライアン・チュア、ラルフ・ユーの友人3人により2016年8月に設立された、フィリピンのマニラの北東に隣接するケソンに拠点を置く、独立系マイクロウォッチブランド。 KLOというブランド名は、会社の最高執行責任者、ケン・リー・オングの頭文字から取っている。
時計と品質とデザインに対して並々ならぬ情熱を秘めていた3人は、“自分自身が身につけて満足できる時計でなければならない”という信念をもってユニークで正確な時計を作るための技術を研究。 ブランド創設の下準備として何年もの歳月を費やし、アルペセイラーとオリジナルスという二つのコレクションを誕生させている。
ケン・オングは時計愛好家であり、リードプロダクトデザイナーとして、企画とデザインを担当している。自分の時計を作ることで時計の特別な世界への情熱をと共有したいという夢をもち、起業家としての豊富な経験をもち、カフェなどのビジネスをしていたが、最終的には時計にフォーカスするようになった。
ブライアン・チュアは、日本の大手自動車メーカーでプロダクトプランナーとしての知識を学んだ経歴をもつ。ケー・エル・オー ウォッチカンパニーでは、その経験を活かして品質管理責任者を担当し、時計の品質に細部にまで目を配っている。
ラルフ・ユーは、ファッション流通、小売店デザインの分野でファミリービジネスを展開した経験を持つ。コーヒー好きのラルフは、マニラで人気を博しているプロミネント・カフェの創設者で、カスタマーサービスの才能を磨き、セールスとマーケティングの責任者として、顧客とのPRコミュニケーションを行っている。
ケー・エル・オー ウォッチカンパニーは、小売店向けに独自コレクションを展開するだけでなく、カスタムデザインの時計の製造、時計の修理、時計アクセサリー(ベルト、ウオッチケース、ポーチなど)の製作も行っている。
アルペセーラー
スイス旅行をした際に、アルプスの山々と海から得たインスピレーションをベースに製作されたフラッグシップコレクション。ラグジュアリーウオッチの名作からの影響を感じさせるソリッド感のあるオクタゴンケースと、インナーベゼルの組み合わせが特徴となっている。
■SS(41mm径)。100m防水。自動巻き(セイコーNH35)。 1万9500フィリピン・ペソ (約4万2000円)
クラシック
文字盤の右側にある時針と分針を備えたサブダイアルはスイスのロンダ社製のクォーツムーブメントで駆動し、左側にレイアウトされた秒表示のサブダイヤルはミヨタ社製の自動巻きムーヴメントで駆動するユニークなモデル。モデル名が示すように、クラシックなスモールセコンド仕様の時計にアレンジを加えたデザインが特徴となっている。
■SS(41mm径)。3気圧防水。ハイブリッドムーブメント( KCM 081/MIYOTA 6T51+スイス・ロンダ1032)。1万6800フィリピン・ペソ (約3万6288円)
》ケー・エル・オー ウォッチカンパニー公式サイト
https://www.klo-co.com
2021年そしてその先、フィリピンの起業家達がマイクロウォッチブランドを立ち上げ、新進気鋭の時計製造国として、更なるフィリピンの経済発展に貢献することを期待しつつ、今後もその動向に注目したい。
文◎William Hunnicutt
時計ブランド、アクセサリーブランドの輸入代理店を務めるスフィアブランディング代表。インポーターとして独自のセレクトで、ハマる人にはハマるプロダクトを日本に展開するほか、音楽をテーマにしたアパレルブランド、STEREO8のプロデューサーも務める。家ではネコのゴハン担当でもある。
https://www.instagram.com/spherebranding/