POWER WatchやLow BEATといった時計専門誌の総編集長を務める筆者がプロデュースするオリジナルの時計ブランド「アウトライン」。その第4弾となる最新作のひとつ 、1980年代のスイス製オールドムーヴメントを搭載した機械式手巻きモデル“ムーンフェイズクロノグラフ7768”がこのほど完成した。発売は12月10日とまだ先なのだが、2回にわたってこのモデルについて紹介させていただきたいと思う。
実はこれ、1980年代に日本で販売されていたものなのである。昨年の11月にそれを扱っていた商社からそのデットストックが偶然見つかったという連絡が入り、今回、アウトラインでリデザインを行い製品化したというわけである。
自分で言うのもなんだが、かなり思いどおりに仕上がったものの実のところこのデザインにはだいぶ苦労させられた。そのためあれやこれやとスケッチを何度もやり直し、3〜4カ月ぐらいはかかったと思う。
なぜ難しかったのかというと、本来クロノグラフにムーンフェイズが付く場合はカレンダーと合わせてインダイアルの円の中に設けられることが多いためバランス的に見ても何ら違和感がない。
階段状になったアンティーク時計で言うところのステップドベゼルにドーム状に盛り上がったプラ風防が古典的な味わいを強めている
しかしこれの場合はムーンフェイズが独立し、その小窓の形と二つのインダイアル(12時積算計とスモールセコンド)の丸とが形も位置もバラバラで、デザインがアンバランスに見えてしまう。ムーヴメント自体の構造がそうなのだから致し方ないのだが、まずはどうやってバランスよくキレイに見せるかに頭を悩ませたのだった。そして考えたのがそれまで白だった文字盤を黒にすること。つまり、そうすることで扇形の小窓の存在感を薄めたのである。そこから今回のデザインが生まれたというわけだ。
その一方で、このモデルの場合はまさしくこのムーンフェイズが最大の魅力であり、おもしろい部分でもある。おそらく時計がお好きな方はおわかりなのではないか、実は扇形の小窓が通常とは天地が逆なのだ。
一般的には上に向かって末広がりになっていることが多く、これの場合はそれとは逆に下に向かって広がっているためとても珍しい。しかもそこにある月には最近ではほとんどみられなくなってしまった顔が描かれているため、1960年代以前のアンティーク時計の風合いが色濃く残っていてなんとも味わい深い。つまりこれが大きな魅力と言えるのだ。
真鍮ケース(裏ブタはステンレススチール)。ケース径36mm。非防水。手巻き(Cal.Valjux7768)。革ベルトはアリゲーター(トカゲ革)
そのため今回のデザインはゴールドのアルファ針にアップライト仕様のローマンインデックスを合わせて1950年代のクロノグラフのイメージに仕上げてみた。そして些細なことではあるが、30分積算計には、当時の積算カウンターに見られたテレホンユニットをさりげなく再現している。と言っても大したことではない、これはかつて電話料金が3分ごとに加算されたため、それを確認できるようにと3分ごとに目盛りが長くなっているというだけのものなのだが、これが50年代当時のクロノグラフの多くが採用していたのである。
搭載されている手巻きクロノグラフムーヴメント、バルジュー7768。毎時2万8800振動。42時間パワーリザーブ。手でゼンマイを巻くときの「カリカリ」音がなんとも心地いい
そして、肝心の中身だが1901年創業のクロノグラフムーヴメントの名門、バルジュー社の手巻きクロノグラフムーヴメントCal.7768である。90年代で生産を終了しているデッドストックの希少なオールドムーヴメントだ。
今回は、未使用のデッドストック品ではあるが、そのまま使うのではなくすべてオーバーホールを実施し、調整を行なったうえで組み上げられている。そのため30年以上経ってはいるものの、ムーヴメントについては1年保証が付く。
なお、デッドストック品のため製品化できたのはわずか17本。現在はこのうちの10本を時計専門のクラウドファンディングサイト「WATCH Makers(ウオッチメーカーズ)」で先行予約を受け付け中だ。よって、詳細については同サイトを参照していただきたい。ちなみに定価は税込み24万2000円(ウオッチメーカーズでは早割あり)。
※クラウドファンディングは終了しました。現在公式サイトで販売中!
さて、次回は後編として、そもそもムーンフェイズ機能とは何のためにあるのかについて、このモデルを例に解説したいと思う(11月7日公開)。