女性編集者がレディースウオッチの新作を実際に見て、感想を交えて紹介する本企画。今回はBreguet(ブレゲ)が誇るレディース時計の代表的コレクション“クイーン・オブ・ネイプルズ8967”から、新作モデルを紹介する。
【モデル紹介】
2019年9月より連載をしている、レディース時計の実機レビュー企画。これまで筆者が気になったモデルを取り上げてきたが、特に掲載するのを楽しみにしていた時計のひとつが、今回紹介するクイーン・オブ・ネイプルズだ。というのもこの時計、実は世界初の腕時計とされる“No.2639”をルーツにもつ時計である。
モチーフとなった“No.2639”は、1812年にブレゲの創業者であるアブラアン-ルイ・ブレゲの手によって製作されたもの。ナポレオン1世の妹で、ナポリ王妃となったカロリーヌ・ミュラが“腕に着用できる時計”を発注したことにより作られたという。ミニッツリピーターやムーンフェイズなどの複雑機構や、加えて温度計まで搭載。手首に巻く素材は金糸と髪をより合わせてベルトとしていたという。
残念ながらこのNo.2639の行方は現在わかっておらず、その姿形を写した写真すら残っていない。どのような時計だったのかを知る手がかりはただひとつ。製作者であるアブラアン-ルイ・ブレゲが残した作業台帳の記録しかなかった。
そこに記述されていた“楕円ケース”をはじめとした情報を手がかりに2002年生み出されたのが、“クイーン・オブ・ネイプルズ”である
そんなルーツをもつクイーン・オブ・ネイプルズは、オーバル型ケースと自動巻きの搭載などを基本としながら、サイズ違いや文字盤のデザインの違いごとに、代表的なものだけでも約5種類のシリーズを展開している。
そんななか今回筆者が注目したのが、2019年に発表されたクイーン・オブ・ネイプルズ8967の新作だ。43×34.95mmと大きめなサイズ感が魅力のシリーズで、その最大の特徴は大きく湾曲したケースの造形。横から見るといかにケースが丸みを帯びているかがおわかりいただけるだろう。後で【装着感は?】のところで説明するが、このカーブがあることで、高い着け心地を実現している。
そんなコレクションに今回初めて採用されたのが、デニム素材のベルト。クイーン・オブ・ネイプルズといえばエレガントな時計というイメージだが、その印象とは反するカジュアルな素材であるため、とても意外な感じがした。
しかしクイーン・オブ・ネイプルズ8967はシリーズのなかでもサイズが大きく、ステンレススチールを採用したものなので、割とカジュアルに着ける人が多いそうだ。今回のデニムとの組み合わせはむしろ、使用するシーンに沿って採用されたものなのかもしれない。
実際に着用してみると、文字盤が同系色のブルーであるため、デニムのベルトとマッチ。カジュアルスタイルでも上品に腕元を演出してくれそうだ。
またホワイトのレザーが組み合わされていることで、マリーンテイストの可愛らしいデザインに仕上げられている。
さらに今回初めて採用された意匠がもうひとつある。それが文字盤に施されたラッカー仕上げである。
実はとても手のかかる装飾で、文字盤の上に深いブルーの塗料と透明色のラッカーをのせ、手作業で混ぜて乾かし、その上にまた塗料をのせては乾かすという作業を15回ほど繰り返している。
深みのあるマーブル模様は、こうした手のかかる作業により生み出されるのだ。このような工程を1本ずつ手作業で仕上げているというのも、特別感を感じ、所有欲が増すポイント。実際に見てみると、光の反射で文字盤が色合いを変えて、とても綺麗だった。
これまでのモデルでは、文字盤に淡い色が多く採用されてきたため、エッグ型のアワーマーカーからエレガントな雰囲気を感じた。しかし本作ではカラーのコントラストが効いているため、アワーマーカーや12・6時位置のブレゲ数字が際立って感じられる。
さらにもうひとつ特徴として挙げられるのが、ラグを配置していないこと。ラグを採用しないことで、ケースの流線型がさらに引き立てられている。
【装着感は?】
ケースサイズは43×34.95mmと大きめだが、ラグがなく、ケースの形状が手首に沿うように湾曲しているため、手首にしっくりなじんでくれた。ケースの大きさを生かし、ケース自体をカーブさせることで、手首とより接着するよう設計されているのがわかる。
またリューズが4時位置に配されており、手の甲に当たらないように工夫されているのもポイントだ。
【推しのポイント】
古典的な意匠とモダンなデザインの融合
時分針に採用されているブレゲ針は、創業者アブラアン-ルイ・ブレゲが発案した古典的な意匠である。針先が円形にくり抜かれているのがオーソドックスな形なのだが、本モデルはくり抜きがされていない、モダンなアレンジが加えられている。この針の形状が、アワーマーカーのデザインともよくマッチしている。
このように、伝統的なデザインを大切にしながら、新しいデザインと調和させ、洗練されたスタイルに仕上げているところが素敵だ。
ネイルに傷がつかない! 女性のための工夫ポイント
4時位置のリューズには、指で操作する部分にはファセット加工が施されており、ネイルを傷つけずに指の腹で操作できるように工夫されている。リューズが長く設計されているのも、操作がしやすくなっているポイントだ。こうしたディテールからも、現代の女性への配慮が感じられる。
また今回紹介したモデルと同時期に発表された “クイーン・オブ・ネイプルズ8918”の新作では、リューズの先端に0.27カラットのルビーを配置。ディテールにも女性を楽しませる工夫がなされるなど、名だたる王族を顧客にもってきた、名門ブランドとしてのDNAが受け継がれている。
今回紹介した2モデルを見て感じた共通項は“現代の女性のファッションを意識した時計作りがなされている”ということ。リューズの設計や、デニム生地のベルトに、それが表れている。
一国の女王が着用したというストーリー性を知ると、より魅力が増すクイーン・オブ・ネイプルズ。ひとりの女性としても、憧れを抱く時計だ。
文◎佐波優紀(編集部)
【問い合わせ先】
ブレゲ ブティック銀座
TEL:03-6254-7211
ブレゲ 公式サイト
https://www.breguet.com/jp