芸能人の愛用時計

服部 幸應 -男の肖像時計の選択(パワーウオッチVol.20)

とにかく多忙な人である。服部栄養専門学校の校長であり、医学博士の服部幸應先生のことだ。全国調理師養成施設協会会長をはじめ、いくつもの組織の理事や顧問を兼任。そのうえ、ほぼ毎日のようにどこかのチャンネルでその顔を見かける。「4時半に寝て8時に起きる」という多忙極まる生活のなかでは、腕時計は絶対に不可欠な存在に違いない。

「僕の仕事は時間が勝負なんで、時間が狂っていると仕事にならないわけです。4時半に寝るという生活も20年以上続けていて、休みもないので、本当は日付け入りの時計が一番いいんですよね」

現在愛用しているのはドゥボワーのムーンフェイズ。「昔から欲しかったもの」だというが、その理由は料理に携わる服部先生ならではだ。

「食材の旬を考えるときに、太陰暦に基づいた旧暦を参考にするんですよ。それがちょうど月の動きと重なるわけです」

時間や日付け、そして月の満ち欠けも、すべてが仕事に関わるもの。実用性こそが腕時計に求める最も重要なポイントのようにも聞こえるが、実は服部先生が本格的に腕時計に凝るようになったきっかけは、 カッコよさ や 憧れ だった。

「昔、『潜水王マイク・ネルソン』というアメリカのテレビ番組が放映されていて、そのなかで主人公が着けていたのがロレックスのサブマリーナだったんですよ。僕は当時、潜水をやっていたので、『なんでこんなにかっこいいんだろう』と思ってましてね。それで高校3年の頃に香港に行ったことがあって、そこで 朝一番に入ったお客には言い値で商品を売らなきゃいけない という話があると聞いたんです。これはチャンスだと思って、買いに行く前の日から狙いをつけて、翌朝店が開く前から待ってましたよ。結局、3割くらいしか安くならなかったと思いますけど、時計を腕に巻いただけで潜水王マイク・ネルソンのような気持ちになってましたね(笑)」


時計を腕に巻いただけで潜水王マイク・ネルソンのような気持ちになってましたね(笑)

憧れが高じて買ったそのサブマリーナは今も健在だというのだから、かれこれ40年以上も使っていることになる。実は服部先生が持っているサブマリーナはもう1本ある。父の形見の品としてもらったコンビタイプのものだが、自分では着けることがないという。

「僕はシルバーは自分には似合わないと思っていて、今着けているものはすべてゴールドなんですよ。自分の肌の色とかを考えると、金が一番合うんじゃないかと思い込んでいて。この服も自分で作って、縁なしのこの眼鏡も昔は女性用しかなかったものを特別作ってもらって、結果的に両方ともベストドレッサー賞をいただきました。自分の個性で身に着けるものを決めて、そう思い込んだら全部そうしちゃうタイプ。あまりこだわってなさそうに見えるけど、実はけっこうこだわっているんですよ」


「時計はそのときの気持ちを表す鏡のようなもの」
---あたかも時計という素材を料理することを楽しんでいるようでもあった。

ちょっとした偶然もそのこだわりを後押ししてきた。サブマリーナと同様に父の形見として手元においているバシュロンも金無垢。そして「30歳くらいの誕生日に母からプレゼントされた」というブライトリングも、たまたま金無垢だった。ヴァシュロンのブレスを付けているブルガリも含めて、それぞれ独自の個性を持つ時計ばかりだが、どれもよく似合っている。さりげなくこだわりを持つことが、自分に合う時計を探すコツなのだろうか。

「時計はそのときの気持ちを表す鏡のようなもの」と服部先生は話し、場面や気分によって着けるものを替える。時間に追われる生活には欠かせない時計を、単なる時間を知るための道具以上の存在として捉えているのだろう。にこやかな表情で時計を眺める服部先生の姿は、あたかも時計という素材を料理することを楽しんでいるようでもあった。

 

服部 幸應料理研究家
YUKIO HATTORI 1945年生まれ。東京都出身。医学博士。学校法人服部学園、服部栄養専門学校の理事長・校長。(社)全国調理師養成施設協会会長ほか各種団体の役員や大学の講師も務める。藍綬褒章受章。また、フランス政府より国家功労勲章も受賞している。「食育」をテーマにした雑誌の連載や講演を多数行うほか、テレビ番組の料理監修など、多方面で活躍している。

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